一矢いっし)” の例文
さすがに、能登守ほどのものが、そのお君の張り通した我儘に、一矢いっしを立てることができないで、悄々しおしおと引返すのは何事であろう。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「尊命は謝すが、亡家の庭にも、一本の桜はあってしかるべく存ずる。不遜ふそんながら、伝来の一矢いっしむくい参らせて、敢えて散り申す」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ヴォルデマール君は、お小姓の資格で、女王様が庭へけ出す時、その裳裾もすそ捧持ほうじするでしょうな」と、毒々しい口調でマレーフスキイが一矢いっしをむくいた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「力さえあれば、早い話が、出羽守に一矢いっしむくいようと思えば、それもできるかもしれない。いや、これは、かりのはなしですが、世間は、力以外にはなにものもないと——。」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
というわけで、今や醤買石は、執念しゅうねんの火の玉とし、喰うか喰われるかの公算五十パアセントの危険をおかしても一矢いっしをむくわで置くべきかと、あわれいじらしきことと相成あいなった。
とこうまあわば正論をもっ一矢いっし報いてやったのですね、そうすると、そのお隣りの細君が泣き出しましてね、私たちは何もいままで東京で遊んでいたわけじゃない、ひどい苦労をして来たんだ
やんぬる哉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と、河原の兵を、叱咤しったしながら、一矢いっしをつがえると、ぶつんと切って放ち、すぐまた、矢を噛ませては、びゅんとつるかえした。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうして、まだ三木城のちないうちに、より大きなものを、秀吉は、一矢いっしも費やさずに、その陣後において獲得していた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
畜生を相手とするのはかなしいが一戦もぜひあるまい。尊氏もよろってとう。なんじ師直、よく我に一矢いっしを放ッてみせ得るか
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むくわれた一矢いっしを苦笑してうけながら、秀吉は脇息きょうそくから燭の方へ白扇を斜めにしながら読んでいた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、宮中勘兵衛みやなかかんべえという者が、犬千代の右の眼へ、一矢いっし射たところ、犬千代は、矢も抜かずに、うまから跳び降りて、勘兵衛を首にし、信長に、首を献じたという男でもある。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だのに草のある所は草いきれが燃え、ふもとから丘の中腹をうずめている馬の背の波は、いななきも揚げずぐッたりしていた。すべてここではまだ一矢いっしの矢うなりも聞えない。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まだ、一矢いっしじえぬうち、降伏せいとは、真田一族が骨のあるのを知らぬ奴らだ。於弁おべん、軍使に来た奴を、大手の木戸からつまみ出して、二度と参らば首をねるぞと申してやれ」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、そこへ迫るやいな、まず乱箭らんせんの雨に見舞われた。——逆風なので矢向きは不利と初めから菊池方では接戦を主眼としている。ほとんど、こっちの矢は一矢いっしも役に立っていない。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は驚きのあまり、半兵衛をただすこともせず、また、一矢いっしむくわず、わずかな側臣と、一部の城兵に守られて、命からがら祖先の城を立ち退き、稲葉郡黒野村の鵜飼城うがいじょうへ逃れてしまった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一矢いっしまじえず、敵を見て退くなどということは、柴田家のお名折れでしょう」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悦之進は、腋の下に汗をおぼえながら、頭を掻いて、一矢いっしむくいた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「敵に城地をふまれながら、一矢いっしむくわずに退けようか」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、半兵衛重治は、それに一矢いっしむくわぬのみか
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さすがは義貞よ。逃げつつも見事な一矢いっしのあいさつを
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、彼はしずかに、やがて一矢いっしを相手にむくいた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いささか一矢いっしむくいておきました。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、一矢いっしを放ち
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)