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わたしせん
「そうか、高い
渡船銭だな」といいながら、八人前三十二銭渡して岸に
上ると、岸上の立札には
明かに一人前一銭ずつと書いてある。
十里四方には人らしい者もないように、船を
纜った大木の松の幹に
立札して、
渡船銭三文とある。
脚絆は
切の
儘麻で
足へ
括り
附けた。
此れも
其の
木綿で
縫つた
頭陀袋を
首から
懸けさせて三
途の
川の
渡錢だといふ六
文の
錢を
入れてやつた。
髮は
麻で
結んで
白櫛を
揷して
遣つた。
工事の
箇所へは廿
里もあつた。
勘次は
行けば
直に
錢になると
思つたので
漸く一
圓ばかりの
財布を
懷にした。
辨當をうんと
背負つたので
目的地へつくまでは
渡錢の
外には一
錢も
要らなかつた。