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なかろく
ふと
中六の
通りの
南外堂と
言ふ
菓子屋の
店の、この
處、
砂糖氣もしめり
氣も
鹽氣もない、からりとして、たゞ
箱道具の
亂れた
天井に、つゝみ
紙の
絲を
手繰つて、くる/\と
𢌞りさうに
「
靜かに
打つてゐるのでは
火事は
遠いよ。」「まあ、さうね。」といふ
言葉も、
果てないのに、「
中六」「
中六」と、ひしめきかはす
人々の
聲が、その、
銀杏の
下から
車輪の
如く
軋つて
來た。
……
然うかといつて、どこへ
戻す
所もないのである。
少しでも
廣い、
中六へでも
持ち
出すかと、
曳き
出すと、
人をおどろかしたにも
似ない、おとなしい
馬で、
荷車の
方が
暴れながら、
四角を
東へ
行く。