むらさき)” の例文
硫黄いおうを燃せばちょっとのくるっとするようなむらさきいろの焔をあげる。それからどうくときは孔雀石くじゃくいしのような明るい青い火をつくる。
友染いうぜんきれに、白羽二重しろはぶたへうらをかさねて、むらさきひもくちかゞつた、衣絵きぬゑさんが手縫てぬい服紗袋ふくさぶくろつゝんで、そのおくつた、しろかゞや小鍋こなべである。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
春子はるこさんが、ってみると、それは、うつくしい、べにざらをるように、むらさきのぴかぴかとしたはねった玉虫たまむし死骸しがいでありました。
玉虫のおばさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
明智はそのかぎをだして、戸棚をひらき、むらさきのふろしきにつつんだ「星の宝冠」の箱を取りだし、それをひらいて中をあらためました。
仮面の恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
僧正そうじょうむらさきころもをきました。人形の前にこうをたき、ろうそくの火をともしました。そしてじゅずをつまぐりながら、いのりをはじめました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
白きは空を見よがしに貫ぬく。白きものの一段を尽くせば、むらさきひだあいの襞とをななめに畳んで、白きを不規則なる幾条いくすじに裂いて行く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは源氏がわざと自分の鼻のあたまへべにを塗って、いくらいても取れないふりをして見せるので、当時十一歳のむらさきうえが気をんで
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
書院前しょいんまえ野梅やばいに三輪の花を見つけた。年内に梅花を見るはめずらしい。しもに葉をむらさきめなされた黄寒菊きかんぎくと共に、折って小さな銅瓶どうへいす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
最後さいご玉手箱たまてばこはなし、あれも事実じじつではありませぬ。べつにこの竜宮りゅうぐうければむらさきけむりちのぼる、玉手箱たまてばこもうすようなものはありませぬ。
ひゅーッと、むらさきをかいて走ったのは般若丸はんにゃまる飛閃ひせん! あッと、卜斎は首をすくめ、かたをはすにかわして、りすべってきた竹童のうでをつかんだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とうさんがそのちいさなむらさきいろのはなまへ自分じぶん草履ざうりひもむすばうとしてりますと、伯父をぢさんはとうさんのそばて、こしこゞめて手傳てつだつてれました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ズル/\ツと扱出こきだしたは御納戸おなんどだかむらさきだか色気いろけわからぬやうになつたふる胴巻どうまきやうなもの取出とりだしクツ/\とくとなかから反古紙ほごがみつつんだかたまりました。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
戸田茂睡が江戸名所の記『むらさき一本ひともと』、浅井了意が『慶長見聞記けいちょうけんぶんき』等またしかり。『紫の一本』上野車坂くるまざかの条を見んか
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
うつむいていると、美濃紙みのがみうすく白いので、窓の外の雲の姿や桐の梢のむらさきの花の色までみて写りそうであった。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
母の肩はむらさきれて荷を負うことができない、チビ公は睡眠すいみんの不足と過度の労働のために頭が大盤石だいばんじゃくのごとく重くなり動悸どうきが高まり息苦しくなってきた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
にんは三じやくおびつツかけ草履ぞうり仕事師しごとし息子むすこ、一にんはかわいろ金巾かなきん羽織はをりむらさき兵子帶へこおびといふ坊樣仕立ぼうさましたておもことはうらはらに、はなしはつねちがひがちなれど
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
このころのすみれは、いまのれんげそう、もっと普通ふつうに、げんげといつてゐるはなで、あのむらさきのすみれではありません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
そうかと思うと緑と白の段だらを付けてあるとか、あるいはむらさきの色とかいろいろの色があって五色ごしきどころじゃない。七色にも八色にもその隊が分れて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
いちばん上のおよめさんは二十三で、しろそでにのはかまをはいていました。二ばんめのおよめさんは二十はたちで、むらさきそでに桃色ももいろのはかまをはいていました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
持せ陸尺ろくしやく十人駕籠かごの左右に諏訪右門すはうもん本多源右衞門高間たかま大膳同じく權内ごんない藤代要人ふぢしろかなめ遠藤東次右衞門等また金御紋きんごもん跡箱あとばこ二ツ簑箱みのばこ一ツ爪折傘つまをりがさには黒天鵞絨くろびろうどむらさき化粧紐けしやうひも
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あたかもむらさきの雲のたなびけるがごとし。されどもついにそのあたりに近づくことあたわず。かつて茸を採りに入りし者あり。白望の山奥にて金のといと金のしゃくとを見たり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これを持もの二人むらさきちりめんにてほゝをつゝみてむすびたれ、おなじ紅絞などを片襷襅かたたすきにかくる。
縁から見るこの谷窪たにくぼの新緑は今がさかりだった。木の葉ともいえないはなやかさで、こずえは新緑を基調とした紅茶系統からややむらさきがかった若葉の五色の染め分けをさばいている。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
昔の研究はまず地理から始めなければならぬ、といって『むらさき一本ひともと』『江戸咄えどばなし』『江戸雀えどすずめ』『江戸真砂えどまさご六十帖』などいう書物や、古絵図類を集めていたのもこの頃であった。
明治十年前後 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
こればかりは分不相應ぶんふさうおうに贅澤な水府煙草を一服、むらさきの煙がゆら/\と這つて行く縁側のあたりに、八五郎の大きな鼻が膨らんでゐると言つた、天下泰平な夏の日の晝下りです。
其頃そのころ着手きての無いインパネスのもう一倍いちばいそでみじかいのをて雑誌を持つてまわる、わたしまたむらさきヅボンといはれて、柳原やなぎはら仕入しいれ染返そめかへしこんヘルだから、日常ひなたに出ると紫色むらさきいろに見えるやつ穿いて
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
むらさき香煙こうえんが、ひともとすなおに立昇たちのぼって、南向みなみむきの座敷ざしきは、硝子張ギヤマンばりなかのようにあたたかい。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
今しも書生の門前をうはさして過ぎしは、此のひとの上にやあらん、むらさき単衣ひとへに赤味帯びたる髪房々ふさ/\と垂らしたる十五六とも見ゆるは、いもとならん、れど何処いづこともなく品格しないたくくだりて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
平和へいわみだ暴人ばうじんども、同胞どうばうもっ刃金はがねけが不埓奴ふらちやつ……きをらぬな?……やア/\、汝等おのれらよこしまなる嗔恚しんにほのほおの血管けっくわんよりながいづむらさきいづみもっさうとこゝろむる獸類けだものども
日本第一の近江おうみのびわは、そのぐるりがほとんど山ですが、霞ガ浦は関東平野かんとうへいやのまんなかにあるので、山らしい山は、七、八はなれた北の方に筑波山つくばさんむらさきの色を見せているだけで
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
それと引違えてしずかに現れたのは、むらさきの糸のたくさんあるごくあらしま銘仙めいせんの着物に紅気べにっけのかなりある唐縮緬とうちりめんの帯をめた、源三と同年おないどしか一つも上であろうかという可愛かわいらしい小娘である。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
コートの下には小紋こもんらしいむらさきがかった訪問着がしなやかに婦人の脚を包み、白足袋しろたびにはフェルト草履ぞうりのこれも鶯色のわせ鼻緒はなおがギュッとみついていた——それほど鮮かな佐用媛なのに
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
東山のむらさき、西雲のくれない、ともに流水鏡面に映ずる時、独り堤上を歩みながらせにし聖者と霊交を結ぶに際し、ベサイダの岩頭、「サン、マルコ」の高壇、余に無声の説教を聴かしむるあり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
最愛の夫人むらさきうえの死もそれである。女三にょさんみやの物のまぎれもそれである。
橋の眼鏡めがねしたを行くむらさきの水の色、みるに心が結ぼれて——えい、かうまでも思ふのに、さてもつれないマノンよと、恨む途端とたんに、ごろ、ごろ、ごろ、遠くでらいが鳴りだして、かぜあふり蒸暑むしあつい。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
あなた達の写真をもらえるうれしさもあり、白地に、むらさき菖蒲しょうぶを散らした浴衣ゆかたをきたあなたと、あかいレザアコオトをきた内田さんを、ボオト・デッキのかげに、ひっぱり出し、村川が、写真をり、また
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そのやみに花はちる…… Whiskyウイスキイ頻吹しぶき……桐のむらさき……
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
と「むらさき一本ひともと」にはあり、天明ごろの「蜘蛛の絲卷」には
花火と大川端 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
ればむらさきびて
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
むらさき濃雲こぐも故里の
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
やあ? きぬ扱帶しごきうへつて、するりとしろかほえりうまつた、むらさき萌黄もえぎの、ながるゝやうにちうけて、紳士しんし大跨おほまたにづかり/\。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「そんならついて来い。葡萄などもうてちまえ。すっかりくちびるも歯もむらさきになってる。早くついて来い、来い。おくれたら棄てて行くぞ。」
(新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ちょうど、夏で、えんがわの前には鉢植えのアサガオがたくさんならんでいて、赤や青やむらさきの大きな花が、美しくひらいていました。
妖人ゴング (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして、みんなが口々くちぐちに、なにかのうたをかわいらしいこえでうたいながら行儀ぎょうぎよく、あかあおむらさき提燈ちょうちんりかざしてあるいてゆきました。
雪の上のおじいさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
一人ひとりわかそうちながら、むらさき袱紗ふくさいて、なかからした書物しよもつを、うや/\しく卓上たくじやうところた。またその禮拜らいはいして退しりぞくさまた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
赤と黄とみどりと青とむらさきとの五しきのしまのはいった着物きものをつけ、三かくの金色の帽子ぼうしをかぶり、緋色ひいろ毛靴けぐつをはいて、ぶらりとさがっていました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
御召物おめしものは、これはまたわたくしどもの服装ふくそうとはよほどちがいまして、上衣うわぎはややひろ筒袖つつそでで、色合いろあいはむらさきがかってりました、下衣したぎ白地しろじで、上衣うわぎより二三ずんした
此處こヽ一つに美人びじん價値ねうちさだまるといふ天然てんねん衣襟えもんつき、襦袢じゆばんえりむらさきなるとき顏色いろことさらしろくみえ、わざ質素じみなるくろちりめんに赤糸あかいとのこぼれうめなどひん一層いつそう二層にそうもよし
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あかだの、むらさきだの、桃色ももいろだの、いろいろのいろそでをかさねて、のはかまをはいた姿すがたは、目がめるようにまぶしくって、きゅうにそこらがかっとあかるくなったようでした。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
名もお花さんと云うそうだ。妻が少し語をまじえて、何もないのでむらさきメレンスの風呂敷ふろしきをやった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)