手元てもと)” の例文
さて引金ひきがねを引きたれども火うつらず。胸騒むなさわぎして銃を検せしに、筒口つつぐちより手元てもとのところまでいつのまにかことごとく土をつめてありたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
御身おんみるとおり、こちらの世界せかいではこころ純潔じゅんけつな、まよいのすくないものはそのまま側路わきみちらず、すぐに産土神うぶすなのかみのお手元てもときとられる。
下部かぶ貝塚かひづかが、普通ふつうので、其上そのうへ彌生式やよひしき貝塚かひづかかさなつてるとか、たしかそんなことであつた。いま雜誌ざつし手元てもといのでくはしくはしるされぬ。
因果の尽くるとき、彼と吾らの間にふっと音がして、彼一人は否応いやおうなしに運命の手元てもとまで手繰たぐり寄せらるる。残る吾らも否応いやおうなしに残らねばならぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかころのおいとうちはさほどに困つてもなかつたし、第一に可愛かあいさかりの子供を手放すのがつらかつたので、親の手元てもとでせいぜい芸を仕込ます事になつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
七歳の時から感應院の手元てもとそだち殊には利發りはつ愛敬者あいきやうものなり誰か違背いはいすべきいづれも其儀然るべしと相談さうだんこゝに決したり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかし手島が渋江氏をうて、お手元てもと不如意ふにょいのために、今年こんねんは返金せられぬということが数度あって、維新の年に至るまでに、還された金はすこしばかりであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
其時そのときには頑固ぐわんこ教頭自身けうとうじしんもモウ加減不安かげんふあんかんじてゐたのだから、おまへまでがソウふならとやうわけで、それをキツカケにして早速さつそく校長かうちやう手元てもと辭表じへうした。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
父親ちやん何故なぜさかなべないのだらう、)とおもひながらひざをついて、伸上のびあがつて、のこぎり手元てもといた。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
乳母うばめに、じゃうえてゐたら、わかあたゝかいがあったら、テニスのたまのやうに、わし吩咐いひつくるやいな戀人こひゞととこんでき、また戀人こひゞと返辭へんじともわし手元てもと飛返とびかへってつらうもの。
たれがもひにかほたるかぜにたゞよひてたゞまへ、いとおよぶまじとりてもたゞられず、ツト團扇うちわたかくあぐればアナヤほたる空遠そらとほんで手元てもといかゞるびけん、團扇うちわはながきえてちぬ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わしふるくからこの瀑布たきあずかっている老人としより竜神りゅうじんじゃが、此度このたびえんあってそなた手元てもとあずかることになってはなはよろこばしい。
すべてをいて手元てもとのこつた有金ありがねは、やく二千ゑんほどのものであつたが、宗助そうすけ其内そのうち幾分いくぶんを、小六ころく學資がくしとして、使つかはなければならないといた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
自由には取扱とりあつかひ難く殊に只今たゞいま手元てもとには一兩の金も是無しと云と雖も三五郎は遙々はる/″\是迄これまで來りしゆゑ何卒くれよと申に段右衞門我等われらいまべつ金儲かねまうけも無れば是非もなしとことわるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さゝくたらしを、ほう/\といてうまがつて、燒豆府やきどうふばかりを手元てもと取込とりこみ、割前わりまへときは、なべなか領分りやうぶんを、片隅かたすみへ、群雄割據ぐんゆうかつきよ地圖ちづごとしきつて、眞中まんなかうめざうもつを
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ときなるかな松澤まつざははさるとし商法上しやうはふじやう都合つがふ新田につたより一時いちじれし二千許にせんばかりかねことしはすで期限きげんながら一兩年いちりやうねんひきつゞきての不景氣ふけいき流石さすが老舖しにせ手元てもとゆたかならずこと織元おりもとそのほかにも仕拂しはらふべきかねいとおほければ新田につた親族しんぞく間柄あひだがらなりかつ是迄これまでかたよりたてかへしぶんすくなからねばよもや事情じじやううちあけて延期えんき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
御米およねまたあがつて、洋燈らんぷにしたまゝあひふすまけてちやた。くら部屋へや茫漠ぼんやり手元てもとらされたとき御米およねにぶひか箪笥たんすくわんみとめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ははなどは、ほかおおくの人達ひとたちおなじく、こちらにまいってから、産土神様うぶすなのかみさまのお手元てもとで、ある一しつてがわれ、そこでしずかに修行しゅぎょうをつづけているだけなのです……。
うつたなどと云れては此長兵衞が面目めんぼくなし如何にもすてては置れぬことなら最初さいしよより斯樣かやう々々の譯也わけなりはなしもあれば假令たとへ手元てもとに金はなくても廿五兩位の金は何れとも融通ゆうづうは出來る者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一層いつその事ければいなりに、うかうか工面くめんいたかも知れないが、なまじい、手元てもとつたものだから、くるまぎれに、急場きうばはして仕舞つたので、肝心の証書を入れた借銭しやくせんの方は
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)