麪包パン)” の例文
かの小窮窟な西洋の礼拝堂に貴族富豪のみ車をせて説教を聞くに、無数の貧人は道側に黒麪包パンを咬んで身の不運をかこつと霄壌しょうじょうなり。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
午のころ僧は莱菔あほね麪包パン、葡萄酒を取り來りて我に飮啖いんたんせしめ、さてかたちを正していふやう。便びんなき童よ。母だに世にあらば、このわかれはあるまじきを。
その頃まで電気を点けることも忘れ珈琲コオヒイの一杯、麪包パンの一片を取ることすらも忘れ、閉め切った部屋の蒸し暑さも忘れて、私は凝乎じっと机にもたれていた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
言語で言えば、丁度熱心に、大声で、息をはずませて、人が千人も前に立っていて、その詞を飢えたものが麪包パンを求めるように求めているつもりで、語り出すような工合に。
大宮で休んだような、人のいない葭簀張よしずばりではない。茶を飲んで、まずい菓子麪包パンか何か食っている。季節は好く分からないが、目に映ずるものは暖い調子の色に飽いている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
食うと恐しくねばり気があって、不出来な、重くるしい麪包パンを思わせるが、薄く切ったのを火であぶり、焦した、或は褐色にした豆の粉〔きなこ?〕と、小量の砂糖とをふりかけて食うとうまい。
丁度饑饉の年に麪包パン屋の戸口に来るように、55
ややありて麪包パン破片かけらを手にも取り
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
真暗な奥の薄敷アンペラ麪包パン屑の間から
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
唯一のエフ・ゴルドン・ロー氏の教示に、猴酒は一向聞かぬが英語で猴の麪包パン(モンキース・ブレッド)というのがある。
夫人我等を顧みて、見給へ、此野はさながらに饗應のむしろなり、麪包パンあり、葡萄酒あり、このみあり、最早わが樂しきまちと美しき海との見ゆるに程あらじといひぬ。
麪包パンを割きながら眼を走らせた新聞には、まだただの一行も昨夜ゆうべの事件は載っていなかった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
「直ぐに人が真似をいたしはしませんでしょうか。戦争の跡に出来たロシア麪包パンのように」
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そこで生き残った人間が相談して、麪包パン果を極めて熱しその種子を犬の通路にいた。犬これを踏んで足を焼き、倒れて手をも焦し、それより立って歩む事かなわず。
乞兒かたゐは人に小銅貨をねだり、麪包パンをば買はで氷水を飮めり。二つに割りたる大西瓜の肉赤くさね黒きは、いづれの店にもありき。これをおもへばきて堪へがたし。
ミケル尊者は麪包パン屋、アフル女尊者は女郎屋、ジュスト尊者は料理屋、ジャングール尊者は悪縁の夫婦を冥加みょうがし、ガウダンス尊者は蠍を除き、ラボニ尊者は妻をしいたぐる夫を殺し
室に入り来てまず四周ぐるりと人々を見廻し地板ゆかいたに坐り両掌を地板にせ、また諸方に伸ばして紙や麪包パン小片かけを拾い嗅ぐ事猴のごとし、この児痩形やせがたにて十五歳ばかりこの院に九年めり
その時貴人ゴタルズスの犬日々主家の麪包パンくわえ来ってこれを養い、またその患所をねぶり慰めた。主人怪しんで犬の跡を付け行きこの事を見て感心し、種々力を尽してついに尊者を元の身に直した。