くび)” の例文
戦争が済むと、私は会社をくびになり、子供は四人もあった。インフレはたちまち激しくなり、六千円ほどの退職金は三日ももたなかった。
野狐 (新字新仮名) / 田中英光(著)
こと細かに申し上げても仕方のないことですが、この不景気と事業不振で先月の末に二十人ぐらいの工員のくびを切ったのです。
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
これだけは云わずにはおれないんだが、おれは社長からあっさりくびだと宣告されて、ある程度まで失望と驚きにうたれずにはおれなかった。
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
先月末に二十人ほど工員がくびを切られたとき、わたしを煽動してストライキを起こす張本人たらしめ、社長を脅して一万円の金を強請ゆすり取り
「じつは、ついこの春まで、黄文炳の家庭へ、お抱えの裁縫師として住み込んでいました。いまではくびになったのですが」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてその上に、くびになるまいと思ってどれだけ監督に媚びへつらったのだったか! 淫売婦と俺のシミタレ根性との間にどれだけ差違があろう。
苦力頭の表情 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
「なんでもいいから早く社長を探してくれ。急ぎの原稿があるんだ。社長に早く見せないと、乃公おれくびになるんだ」
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのかんに、二十万近くの臍繰りを貯めこみ、当主たる石田氏が、行政機構改革でくびになったあと、五月の末から七月の末まで、住込みのハウス・メードまで使って
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
然し皆くびがこわいのだ、然し、もう僕は恐れんぞ、この間の歎願書問題でも、一途に、俺のやり方が悪いと云う、衛生課長を更迭しろ、と或る者は云っているそうだ。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
よく、それでくびにならないものだが、あの御面相だから大丈夫なんでしょう、と笑う職員もいる。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
倉田工業では六百人の臨時工をくびきるということが愈々いよいよ確実になり、十円の手当も出しそうにないことが(共産党のビラがかれてから)誰の眼にもハッキリしてきた。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
橋のそばの日立商会と云う株屋さんに月給参拾円で通いましたが、ここも三、四ヶ月でくびになり、私は両親と一緒に神楽坂かくらざかだの道玄坂だのに雑貨の夜店を出すに至りました。
文学的自叙伝 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
十九で人生の悲しさを知った長男は、鼻緒を切らした足駄で、真暗な泥路を夜遅く帰って来てから、初めて月給を貰い、すぐくびになった渋い辛さの表現の仕様がないらしい。
校舎を汚されることだけが自分のくびと同じくらい怖ろしいと観念している使丁たちに階下の遊び場を追いまくられ、子供らは吹きっさらしの屋上運動場に逃げあがって行った。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「ところがそうはいかねえ事情がありやしたんで……旦那、あっしゃもうくびでやんすよ」
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
みを子が会社をくびになってから、時々、母親の全く知らない青年が訪ねて来た。
母親 (新字新仮名) / 若杉鳥子(著)
彼は其処をくびになってからというもの、如何にしても口が見つからなかった。
モルモット (新字新仮名) / 細井和喜蔵(著)
よくできたお方でした……こう申しては、なんですが、二年前にこの老耄おいぼれが、学校の方の小使をくびになりました時に、お邸の方の下男にお引き立てくださったのも、後で女中から聞いたことですが
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
くびにならんさきに、自分から、出て行けッと云うんだな。」
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
みんなくび切れば機械のサボタアジュ
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
いつくびになるかわからない。
幸福の建設 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
四日目でくび
夜明の集会 (新字新仮名) / 波立一(著)
くびや」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
売っとばそうと、覚悟はしてるが伜の埋め金は、とても、そんな事じゃ、追いつくめえし、訴えられりゃ、お上のお役は、その日からくびになるしの……
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——ぜひ、わが任地にんちに来れ。大きな声ではいえないが、わしも近いうちに、大使館をくびになるのでのう。わしが飜訳大監ほんやくたいかんとして威張いばっとるうちに、ぜひ来て下されや」
敗戦と同時にぼくは会社をくびになったが、宿望の文学生活だけにうちこめると気負いたった気持だったのに、苦労しぬいてきた女として妻は貧乏と冒険を憎悪し、ぼくのペン一本の生活力を危ぶみ
さようなら (新字新仮名) / 田中英光(著)
彼は、マッチ工場をくびになった。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
今日もお役署には、さい大臣のお目付とかが来て、十日以内に挙げなければ、お奉行もくび、うちの良人ひとも遠島だなんて、顔に金印きんいん(いれずみ)まで打たれて帰ってきたんだよ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、そんなことをしても無駄じゃ。わしがくびになるだけではなく、大使自身も馘になるのだ。大使ばかりではない。参事官さんじかん書記生しょきせいも語学将校も園丁えんていもコックも、みんな馘になるのじゃ」
「ここを何処と思う。寛永寺の境内であるぞ。輪王寺の宮のおそば近くへ、不浄役人が十手をたずさえて立ち入るなどは、以てのほかだ。奉行以下、くびを承知でやって来たか」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そんなことをすれば、私はすぐくびになってしまいますわ」
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だってもし、そのさい不審を申し立てれば、西門慶の手がまわって、こっちのくびは飛んじまうし、毒死の処置も、別な検死が出向いてみ消されてしまうに違いありませんからね。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)