頷付うなづ)” の例文
「えゝ、ありがたう。」と礼のしるしにと頷付うなづく拍子に黄楊の櫛の落ちたのを取つて、結髪をかき、「白井さん、葡萄酒は。」
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
成程なるほど。」と蘿月らげつ頷付うなづいて、「さういふ事なら打捨うつちやつても置けまい。もう何年になるかな、親爺おやぢが死んでから………。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「えゝ。」と頷付うなづいて、「僕は時々一人で飮みに行くです。時々妙に淋しくなつて仕樣がないですから。」
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
長吉ちやうきちだ首を頷付うなづかせて、何処どこあてもなしに遠くをながめてゐた。引汐ひきしほ堀割ほりわりつないだ土船つちぶねからは人足にんそくが二三人してつゝみむかうの製造場せいざうばへとしきりに土を運んでゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
をとこ道子みちこくちからまかせになにふのかといふやうなかほをして、ウム/\と頷付うなづきながら、おもさうな折革包をりかばんみぎひだりちかへつゝ、かれてはしをわたつた。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
流水は頷付うなづいたのみで別に答へはせず更に新しい卷煙草に火をつけて居た。自分は其の儘眠りたいと思つて横になつたまゝ暫く眼を閉ぢて見たが、矢張り眠られない。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
長吉ちやうきち丁度ちやうど茶を飲みかけたところなので、頷付うなづいたまゝ、口に出して返事はしなかつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しかり」と頷付うなづく初めての声。あゝの響はいかに。
自分は默つて頷付うなづいてゐた。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)