靄然あいぜん)” の例文
いかに靄然あいぜんたる春風のために化せらるるあたわざる頑石がんせきといえども、この切迫なる勢いのために化せらるるべし。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
天地六合ことごとく靄然あいぜんたる神気の中に浮かぶを見、国家の上にありては、皇室神聖の純気とわれわれ忠孝の元気と相映じて、国体全く霊然たる神光の中に輝くを見る。
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
靄然あいぜんたる君子の風、温雅なる淑女のさまは我得んと欲して得る能わず、貧は我を社会より放逐せしむるものなり、貧より来る苦痛の中に寒固孤独の念これ悲歎の第五なり。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
貫一はこの絵をる如き清穏せいおんの風景にひて、かの途上みちすがらけはしいはほさかしき流との為に幾度いくたびこん飛び肉銷にくしようして、をさむるかた無く掻乱かきみだされし胸の内は靄然あいぜんとしてとみやはらぎ、恍然こうぜんとしてすべて忘れたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
獄中常におのずからの春ありて、靄然あいぜんたる和気わきの立ちめし翌年四、五月の頃と覚ゆ、ある日看守は例の如く監倉かんそうかぎを鳴らして来り、それ新入しんにゅうがあるぞといいつつ、一人の垢染あかじみたる二十五
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
しかも多少の程度において、和気靄然あいぜんたる翻弄ほんろうを受けるようにこしらえられている。与次郎は愛すべき悪戯者いたずらものである。向後もこの愛すべき悪戯者のために、自分の運命を握られていそうに思う。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
靄然あいぜんとして暮色の迫るところ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
余は普通基督教徒がもくして論ずるに足らざるものと見做す小教派の中にも靄然あいぜんたる君子、貞淑の貴婦人を目撃したり、悪魔よ汝の説教をめよ、もし余にして善悪を区別し
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
しかれども春色靄然あいぜんたる平原曠野に出ずるときにおいてはもし何物がもっとも不必要なるいな厄介者なるかと問わば必ずこの綿衣ならざるべからず。しからばなんすれぞこの綿衣を脱せざるか。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
自分ながら決して強い男とは思つてゐない。考へると、上京以来自分の運命は大概与次郎のめにこしらへられてゐる。しかも多少の程度に於て、和気靄然あいぜんたる翻弄を受ける様にこしらへられてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かつて彼女の写真を見るに、豊頤ほうい、細目、健全、温厚の風、靄然あいぜんとしておおうべからざるものあり。母の兄弟に竹院和尚おしょうあり、鎌倉瑞泉寺の方丈ほうじょうにして、円覚寺の第一坐を占む、学殖がくしょく徳行衆にぬきんず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)