のぶ)” の例文
見ざりし世の人をその墳墓にふは、生ける人をその家に訪ふとは異りて、寒暄かんけんの辞をのぶるにも及ばず、手土産たづさへ行くわづらひもなし。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
拝啓のぶれば、昨日はんどころなき差支えのためプラットホームまで御出迎え致すべきはずの処、その意を得ず、そのため極めて用なれたる男一名、差し向けたる次第に御座候ござそうろう
のぶれば、昨冬以来だんだん御懇情なし下されし娘粂儀、南殿村稲葉氏へ縁談御約諾申し上げ置き候ところ、図らずも心得違いにて去月五日土蔵二階にて自刃に及び、母妻ら早速さっそく見つけて押しとどめ
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
くらし居候と申のぶるに越前守殿又其方が願ひと申は如何いかなる事なるやとたづねられければお政其儀はをつと文右衞門事此程無實の罪にて火附盜賊あらため小出兵庫樣御手へ召捕めしとられ入牢相成し事がらに御座候と申に大岡殿て其方が申處にては殊のほか困窮こんきうの身の上に聞ゆれども此具足櫃このぐそくびつ又差替の大小等を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
時下秋冷のこうそろ処貴家益々御隆盛の段奉賀上候がしあげたてまつりそろのぶれば本校儀も御承知の通り一昨々年以来二三野心家の為めに妨げられ一時其極に達し候得共そうらえども是れ皆不肖針作ふしょうしんさくが足らざる所に起因すと存じ深くみずかいましむる所あり臥薪甞胆がしんしょうたん其の苦辛くしんの結果ようやここに独力以て我が理想に適するだけの校舎新築費を
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
のぶれば、愚娘儀につき、先ごろ峠村の平兵衛参上いたさせ候ところ、重々ありがたき御厚情のほど、同人よりうけたまわり、まことにもって申すべき謝辞も御座なき次第、小生ら夫妻は申すに及ばず
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)