長船おさふね)” の例文
話は是で片付いたが、拳龍は部屋へ取って返えすと、袱紗に包んだ長船おさふね長安を急いで押入へ仕舞い込み、「あぶないあぶない」と呟いた。
としかつめらしく、軽く頭を下げると同時に、スラリ鞘走さやばしらせた一刀は、釣瓶落つるべおとしの名ある二尺八寸、備前長船おさふね大業物おおわざもの
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すなわち一軍は、西大川、真可上まかがみ和気わけ金谷かなやを経て三石みついしに至る旧道をすすむ。また一軍は、国府市場、沼、長船おさふねを通って西片上に出、三石に合する。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それがしばらくしてから帰参して側者頭そばものがしらになっていたのである。権右衛門は討入りの支度のとき黒羽二重の紋附きを着て、かねて秘蔵していた備前長船おさふねの刀を取り出して帯びた。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
裾から貴婦人の足をおさえようとするから、ええ、不躾ぶしつけな、あねなやます、やまいの鬼と、床の間に、重代の黄金こがねづくりの長船おさふねが、邪気を払うといって飾ってあったのを、抜く手も見せず
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また兵学に精通し、敬神家で、槍は一代に冠絶し、春日かすがの名槍を自在に繰り、剣をよくして、備前長船おさふね小豆長光二尺四寸五分の大刀を打ち振うのであるから、真に好個の武将である。
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「遠慮とあればそのままで好いが、中身は当国長船おさふねの住人初代長光ながみつの作じゃ」
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「山下君、これは、長船おさふねろうくんといって、○○高等学校の先生です」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「拙者数日前備前屋の店頭で、長船おさふねの新刀をもとめましたが、泰平のご時世試し斬りも出来ず、その切れ味いまに不明、ちと心外でございますよ」
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かッといったかと思うと、振り向いた老人の肩先へ、抜き打ちに落ちて行った冷刃! 彼の手に馴れた長船おさふねです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それではこれで、いよいよ締め切りに……エエ石川左近将監いしかわさこんしょうげんどのより、四つ。ほかに、長船おさふねの刀一ふり一石飛騨守様いっこくひだのかみさまより五つ半、および絹地きぬじ五反。堀口但馬ほりぐちたじまさまより——
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
長船おさふね君は相変らず角張っている。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
……抜けば必ず血を見る長船おさふね! この長船を抜かせぬよう、ご注意! ご用心! ご注意! ご用心!
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
のりをふいた長船おさふねやいばを、そろりと鞘にいれると、日本左衛門の手は机の上にある樟板くすいたの図面へのびて、それを横に持つと同時に、ふッ……と短檠たんけいをふき消して
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「石川家伝来、長船おさふねの名刀一ふり、ほんの名刺代り。つつがなく日光御用おはたしにあいなるようにと、主人将監の微意にござりまする。お国おもての対馬守御前へ、よろしく御披露のほどを……」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
中身はある長船おさふねだが、剥げチョロケた鞘の拵えなどが、旗二郎を気恥ずかしくさせたのである。
怪しの館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
待てといい、オオと答えたことだけで、もう双者は一髪をれぬ対峙たいじとなって、かれの長船おさふねと金吾の了戒りょうかいの一刀はなんどきでも、さやを脱して敵の血を吸わんとする用意を怠っておりません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
常に入口には注連縄しめなわの張ってある仕事場へ奔入ほんにゅうして——そこでは職人たちの手によって、諸侯からひきうけている正宗や村正や長船おさふねや——世に名だたる銘刀を始め、あらゆるやいばが研ぎぬかれている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)