醜怪しゅうかい)” の例文
下顎部の異常に発達した色の黒い彼の容貌は、人間離れがして醜怪しゅうかいであつた。それは私の胸に弾け返る憎悪を二倍にも三倍にもした。
母たち (新字旧仮名) / 神西清(著)
坊主頭ぼうずあたまの上には、見る見るくろずんだきたないしみが目立ってきた。醜怪しゅうかい触手しょくしゅのようなものが幾本となく坊主あたまをさすっている。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかも醜怪しゅうかいなものに変形するという犠牲まではらって、おれは何を得たのか。現実に角を突き合わして、手痛い反撃を受けただけの話だ。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
またしても、闇の中に、北島と咲子の断末魔の、吐き気をもよおすような、醜怪しゅうかいな物すごい形相が、二重写しになって、まざまざと浮きあがった。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
自分ながらしつこさの醜怪しゅうかいに気付くほど野性そのままの衝動にかられ、然しもはや自制の力はなかったのだが、七八名一団となってお綱のあとを追いかけていった。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
しわに包まれた老婆の全身を埋めた刺青の醜怪しゅうかいさから、若い女の起誓ママきしょうをこめた、腕や、内股うちまたの名前や、花札はなふだや、桜なぞの刺青から、アルコール分の摂取せっしゅとか
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
状貌じょうぼう醜怪しゅうかいなるに九助大いに怖れを為し、是やかねて赤倉に住むと聞きしオホヒトならんと思ひ急ぎ遁げんとせしが、過ちて石につまずき転び落ちて、かえりて大人の傍に倒れたり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
欲張よくばばあさんは、みずから化物ばけもの葛籠つづらの中に潜在させたから、ふたを開くとともに醜怪しゅうかいなものがあらわれだし、正直しょうじきじいさんは宝物ほうもつ潜在せんざいさせたから、なかからあらわれ出たのがすべて財宝であった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
あっけにとられたまま、私は、彼のその醜怪しゅうかいなストリップを見ていた。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
又六は醜怪しゅうかいな顔を挙げて、精一杯の抗弁を続けました。
車のうしろが大写しになって、人間豹の醜怪しゅうかいな顔が、闇の中で、ドス黒い舌をいて、ニタニタと笑っている。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
僕はそのいくつかの姿を、ヘッド・ライトの中にみとめたが、どれもこれもどす黒く、そして醜怪しゅうかいな形をしていて魚らしくなかった。魚と両棲類りょうせいるいの合の子としか見えなかった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
話し手は、そこでまた醜怪しゅうかいな顔をニュッと突き出して、薄気味わるくウフフフフと笑った。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)