轢死れきし)” の例文
のみならず万一成就じやうじゆするとしても縊死よりも苦痛は多いわけである。轢死れきしも僕には何よりも先に美的嫌悪を与へずにはゐなかつた。
或旧友へ送る手記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それも古風な身投などの場合に限らず、電車や汽車で轢死れきしをする場合にも、履物だけはちやんと揃へてゐるから可笑をかしい。
光線の圧力を研究するために、女を轢死れきしさせることはあるまい。主人の妹は病気である。けれども兄の作った病気ではない。みずからかかった病気である。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さて警察医の観察によると、死因は無論轢死れきしであって、右の太腿を根許ねもとから切断されたのによるというのだ。
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それから二日ばかりしての新聞に、前橋行の汽車の進行中、乗客の女が轢死れきししたと云う記事があった。……
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ああ、フィルムといえば、身許不明の轢死れきし婦人のハンドバッグに、フィルムのくずがあったではないか。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
無惨の轢死れきしをなしたる男のたもとに、千葉印旛いんば郡成田町仲の町三百八十九番地、庄司見新吉と記せし紙片ありしをもって、同署は原籍地へ照会せしに、親戚の者三人来たり
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そのころ吉川鎌子よしかわかまこと運転手の恋愛事件が、世間にセンセイションをき起こしていたが、千葉と本千葉との間で轢死れきしを図り、それがこの病院に収容されているのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
このポンコツというのは我々鉄道屋仲間の言葉で轢死れきしのことをいうのですが、私も昨年学校をてすぐ鉄道の試験を受け、幸い合格はしたもののどういう関係かさんざじらされた揚句あげく
(新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
結婚直前に轢死れきしを遂げた花婿の事件があったが、それについて、岩井繁雄は、「あの主人公は実はそのアルマンスだよ」と語り、「それに面白いのは花婿の写真がどうしても手に入らないのだ」
(新字新仮名) / 原民喜(著)
ひとり病気のみでない。彼らは、餓死する。凍死もする。溺死できしする。焚死ふんしする。震死する。轢死れきしする。工場の機械にまきこまれて死ぬる。鉱坑のガスで窒息して死ぬる。私欲のために謀殺される。
死刑の前 (新字新仮名) / 幸徳秋水(著)
「……止めろッ……轢死れきしだッ……」
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
轢死れきしした彼は汽車の為に顔もすつかり肉塊になり、僅かに唯口髭くちひげだけ残つてゐたとか云ふことだつた。この話は勿論話自身も薄気味悪いのに違ひなかつた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そして身許みもと不明の轢死れきし婦人のハンドバッグの底に発見せられたのも、矢張やはり同じフィルムだった。この映画が写し出されたが最後、意外なことが起るのではないか。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かわいそうにまだ色光沢いろつやが悪い。——辣薑性らっきょうせいの美人——おっかさんが君によろしく言ってくれってことだ。しかしその後はあの辺も穏やかなようだ。轢死れきしもあれぎりないそうだ
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
客はその後で、列車ボーイから、三人れの水兵が、田浦方面へ遊びに往っていて、帰りにその一人が帽子を無くしていたので、それがために、途中で轢死れきししていると云うことを聞かされた。
帽子のない水兵 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
深山理学士は、あの奇怪な轢死れきし婦人事件のあった日と前後して、この装置の製作にとりかかった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
石炭殻せきたんがらなどを敷いた路は爪先上つまさきあがりに踏切りへ出る、——そこへ何気なにげなしに来た時だった。保吉は踏切りの両側りょうがわに人だかりのしているのを発見した。轢死れきしだなとたちまち考えもした。
寒さ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
轢死れきしじゃないですか」
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「これは国木田独歩くにきだどっぽです。轢死れきしする人足にんそくの心もちをはっきり知っていた詩人です。しかしそれ以上の説明はあなたには不必要に違いありません。では五番目の龕の中をごらんください。——」
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
僕の姉の夫はその日の午後、東京から余り離れていない或田舎に轢死れきししていた。しかも季節に縁のないレエン・コオトをひっかけていた。僕はいまもそのホテルの部屋に前の短篇を書きつづけている。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
僕の姉の夫はその日の午後、東京から余り離れてゐない或田舎に轢死れきししてゐた。しかも季節に縁のないレエン・コオトをひつかけてゐた。僕はいまもそのホテルの部屋に前の短篇を書きつづけてゐる。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
危く轢死れきしげようとした。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)