賦与ふよ)” の例文
しかし爪先で立っているということが、この下肢の直線にきわめて動的な、デリケートな、他に類例のない感じを賦与ふよしているのである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
まずその手段の一として会計検査院なるものに大なる権力を賦与ふよして、政治機関運転の原動力たる会計の検査を厳密にせば
東洋学人を懐う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
世間を思わせるほど博士に価値を賦与ふよしたならば、学問は少数の博士の専有物となって、僅かな学者的貴族が、学権を掌握しょうあくし尽すに至ると共に
博士問題の成行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてこれに関してはキリストの復活、その永生賦与ふよの約束等確実なる証拠を提供し得るのである。これキリスト以後に生れし我らの幸福である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
彼は偉大なのらくら者、悒鬱ゆううつな野心家、華美な薄倖児はっこうじである。彼を絶えず照した怠惰の青い太陽は、天が彼に賦与ふよした才能の半ばを蒸発させ、蚕食さんしょくした。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ところがこの生物は、理性と意志を賦与ふよされた精霊だった。で、それにとりつかれた人々は、たちまちきものがしたようになり、発狂するのであった。
あの袈裟の魂といつたやうな台詞に新らしさを賦与ふよしたつもりでゐるのであらうが、私の読んで受けた感じは、却つてそのために芝居が小さく、理屈つぽく
三月の創作 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
彼女はすべての優しさと、女らしい性質とを賦与ふよされていた。彼女は最も崇拝にあたいする女性であった。彼女は確かに高尚な勇壮な愛を持つことができた。
電子をそういう「実在」と思い込んでしまえば、それにいろいろな物性を賦与ふよするのも自然の勢いである。
比較科学論 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
粘土から人間を創造し、それに生命と幸福を賦与ふよせんがため天より火を盗んだかどでコーカサスの山の岩壁に鉄鎖でいましめられ、荒鷲に内蔵をついばまれながら苦悩に堪えた英雄。
賑かな世間から不意に韜晦とうかいして、行動をただいたずらに秘密にして見るだけでも、すでに一種のミステリアスな、ロマンチックな色彩を自分の生活に賦与ふよすることが出来ると思った。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
希望と平安の根源を賦与ふよする力として、真の宗教はこれを信ずる価値があるのである。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
どんなに、小さくとも、また、名がなくとも、純粋で、美しかったら、正しかったら、天地の間に、何ものかの力を賦与ふよしている。また、何ものの力をもってしても、うすることもできない。
名もなき草 (新字新仮名) / 小川未明(著)
厳然として賦与ふよされているものに、親もまた同様のものをもって、おごそかに相対あいたいするところに、われわれの肉の愛も、人の知恵をもってする教育も清められて、本当のものにされてゆきます。
おさなご (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
奔放ほんぽうな即興に高い芸術性を賦与ふよすることはショパンの独壇場どくだんじょうだ。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
彼女は癇癪かんしゃくの強い、向こう見ずな、顔の浅黒い、気短かな女でなみなみならぬ腕力を賦与ふよされていた。
従って彼が、これを本意とする文芸に対して、哲理の世界及び道徳の世界のほかに、独立せる一つの世界を賦与ふよしたことは、時代をぬきんずる非常な卓見と言わなくてはならぬ。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
加うるに選挙権を賦与ふよするの標準を財産に置くことを改めなければならぬ。
選挙人に与う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
染まるべからざるものに染つて行く可能性を賦与ふよした自然は? 絶対に自己のものにする事の出来ないものを自己のものとなし得る可能性を賦与した自然は? 満されたる心の飽満から生ずる倦怠けんたい
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
国家の公民として一定の土地の自主的な耕作権を賦与ふよされることになった。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それができるのは、戒律を課した当の長老あるのみだ、とのことであった。こういう次第で、長老というものはある一定の場合において、限りのない、不可思議な権力を賦与ふよせられているのである。