言伝ことづけ)” の例文
旧字:言傳
「皆さん、どうか、お引取り下さい。とんだ御迷惑でした。それから町役人にそう言って、ここへ来るように言伝ことづけをお願いします」
「あまり、有難くもないだろうが、死者の由縁ゆかりの者が来たら、言伝ことづけてくれ。——逃げ隠れはせぬ、いつでも、御挨拶はうけるとな」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
言伝ことづけでもあらばと思って、人を通して、電話で伝えさせた。小金も、その母親も、共に病床にあるということが、その時解った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
言伝ことづけを言いにいってくれた娘があったが、後に吉原で奴太夫やっこたゆうという名でつとめに出ているときかされたことがある。
「片原に、おっこち……こいつ、棚から牡丹餅ぼたもちときこえるか。——恋人でもあったら言伝ことづけを頼まれようかね。」
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
菊太郎君が逐一話して置いてくれた筈だけれど、僕は念を使って、律子さんに言伝ことづけを頼んだ。直接申入れるのが何となく怖かったのである。先頃で懲りている。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
実は己が余り粗匆そゝっかしく聞て行たから悪かッたよ、折角内儀の言伝ことづけうけて、先の番地を忘れるとは
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
今の呑兵衛老医ドクトルと、非番だった慶北丸の来島運転士を、その漁師に言伝ことづけて呼寄せると、この縁側で月を相手に一杯やりながら、心ばかりの弔意を表しているところだった。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こちらの太夫元へお言伝ことづけがありました、というのはほかじゃございません、こちらの小屋に出ておいでなさる茂太郎さんというのが、どうしたものやら、昨晩、迷児まよいごになって
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おれは、山川石亭の甥だが、ゴイゴロフといううんてれがんにちょっと言伝ことづけ
犂氏の友情 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかしこれだけは『市長』さんの言伝ことづけですから、ちゃんとあんたに通じて置くけれど、警察ではあんたのことをしきりに探しているそうだから、注意をしていろだってさア。……聞いているのあんた。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「明日もゆきます。お言伝ことづけがあったら言って下さい。」
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「お艶どの、何か言伝ことづけはないかナ?」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その辻看板に、嵐粂吉という名を見たものですから、いつぞや髪結かみゆい言伝ことづけして来たことばを、胸に浮かべたものでしょう、次郎はふと
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あのの方から逢つて呉れろといふ言伝ことづけがあつて——もつとも、我輩もね、君の知つてる通り蓮華寺とは彼様あゝいふ訳だし、それに家内は家内だし、するからして
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
何でも郷里の人に両親から言伝ことづけた品物だとかで、例によって私が帰宅後に、病院に居残っていた彼女が受け取ったという話であったが、彼女が汗を流してひっさげて来た酒瓶と樽にはレッテルも何もなく
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「分っております。失礼ながら、その御本心を買っていればこそ、あっしは自分の役目がらを忘れてまで、こうして万太郎様のお言伝ことづけを」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんというても今お目にかかるのは金吾の苦痛じゃ、ただよしなにお言伝ことづけしておいてくれ、ある時節には、きっと、金吾がお詫びに参じますと——」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夕景ゆうけいには戻られるであろう。戻った節にはお言伝ことづけいたしておく」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『山科からの急なお言伝ことづけを、手わけして告げて歩いておる』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)