見惚みほ)” の例文
ロイドはそれに見惚みほれていて、着物を脱ごうとしなかった。マアガレットがうながすと、彼はそのままシャツの腕まくりをして、浴槽へ近づいて来た。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
たくみな化粧で変貌へんぼうしたX夫人を先年某料亭で見て変貌以前を知って居る私が眼前のX夫人の美に見惚みほれ乍ら麻川氏と一緒に単純に讃嘆さんたん出来なかった事
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それから尾瀬沼へ行って偶然に志村烏嶺氏と落合った、志村氏と燧岳に登って平ヶ岳の雄大なるに見惚みほれた、前述の次第で平ヶ岳を思い込んでから失敗ばかり重ねていたが
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
雑輩からたたき上げたルージンは、病的なほどうぬぼれがつよく、自分の頭脳と才知を高く評価していた。時とすると一人でそっと、鏡に映る自分の顔に見惚みほれることさえあった。
と亀田先生がいふと、良寛さんはとむねをつかれたやうに、はつとして、そばにおいてあつた徳利をつかむや、さあつと麓の方へ走り出した。良寛さんは月に見惚みほれて酒のことを忘れてゐたのである。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
いつぞや帝劇でバンドマンのオペラがあった時、私は若い西洋の女優の腕の白さに見惚みほれたことがありましたっけが、ちょうどこの腕があれに似ている、いや、あれよりも白いくらいな感じでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
思ひししばし見惚みほれつ昼さがり陶器師すゑものつくりまはすろくろを
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
聞惚きゝほれ、見惚みほれ、あこがれて
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
これを見る見惚みほけに心まどひて
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
われかのさまに見惚みほけぬる。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
私は女ながらつくづくこの娘に見惚みほれた。棕櫚の葉かげの南洋蔓草の花を見詰めて、ひそかに息をめるような娘の全体は、新様式な情熱の姿とでも云おうか。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ゆめのごと空あふぎ、いまぞ見惚みほるる。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
吾かのさまに見惚みほけぬる。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
着物の美しさに見惚みほれている間にもわたくしもわたくしのどこかの一部で、これは誰やらに、そしてどこやらが肖ているとしきりに思い当てることをせつくものがあった。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
見惚みほれぬ。——るむ笛の
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「なに、ぼんやりしてんの、お母さん。」むす子は美男子に見惚みほれて居るような場合、何にも考慮に入れない母親の稚純性を知って居て、くすりと笑った。美青年も何かしら好意らしく笑った。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)