裸形らぎょう)” の例文
まったく! 目をみはるまでもなく、つい眼前がんぜんに、高らかに、咽喉のどふくらまして唄っている裸形らぎょうのうちに、彼が最愛の息子利助がいたのだ!
(新字新仮名) / 徳永直(著)
そこから五、六町ほど離れている五十鈴川いすずがわの岩のほとりに、一人の裸形らぎょうの男が、氷を割って、ざぶざぶと水を浴びていた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
胸毛や背の毛の発育を不必要ならしめ、身と衣類との親しみを大きくした。すなわち我々には裸形らぎょうの不安が強くなった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それを弁信はまのあたり見ていると、その紅蓮の池の真中に、二つの人の姿の裸形らぎょうなのが現われるのを見ました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
泥沼に陥没かんぼつしかかった旅人のように、無暗矢鱈むやみやたら藻掻もがき廻るその裸形らぎょうの男三人、時に赤鬼があばれるように、時にまた海坊主がのたうち廻るような幻妖げんようなポオズ——だが
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
男女混浴……国貞くにさだえがくとまではいかないが、それでも裸形らぎょう菩薩ぼさつが思い思いの姿態をくねらせているのが、もうもうたる湯気をとおして見えるから、与吉はもう大よろこび。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
五階に居住していた美少女エラ子(本名年齢等一切不明)のコック兼従僕にして身長七尺に近い印度インド人ハラムと称する巨漢が、同少女の寝室床上に一糸も纏わざる裸形らぎょうのまま
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その白熊みたいな莫大な裸形らぎょうと濡れた微笑とを運び入れて、そこで明光のもとに多勢の船員たちからどんな個人的な下検査を、平気で、AYE! むしろ大得意で受けることか。
美しき裸形らぎょうの身にも心にも幾夜かさねしいつはりのきぬ
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
真黒な裸形らぎょうで、眼も、鼻も、口も、少しもわかりませんが、弁信の頭の上から下りて、すたすたと火の海を渡って、髑髏の方へ行こうとしますから、弁信が
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
縁端えんばたにずらり並んだ数十の裸形らぎょうは、その一人が低く歌い出すと、他が高らかに和して、鬱勃うつぼつたる力を見せる革命歌が、大きな波動を描いてでついた朝の空気を裂きつつ、高くねつつ
(新字新仮名) / 徳永直(著)
たけ飛沫しぶきや、真っ白な霧のために、初めは、石か人間かと怪しまれたが、二つの手の指を、胸の前にがっきと組合せ、五丈余りの滝の下に、じっと、うなじを垂れている裸形らぎょうの者は、石ではない
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
問題の役人が手に取って示したのは、畸形きけい裸形らぎょうの男女を描いた、立川流の敷曼陀羅しきまんだらというのに似ている。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)