衣袂いべい)” の例文
青葉の風が衣袂いべいくんじて、十三夜の月も泣いてゐるやうな大川端、道がこのまゝあの世とやらに通じてゐるものなら、思ひ合つた二人は、何んのためらひもなく
日光水面を射て、まぶしさ堪えがたかりしも、川風そよそよと衣袂いべいを吹き、また汗をぬぐう要無し。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
瀧飛沫は冷やかにえりちて衣袂いべい皆しめり、山風颯然として至つて、瀧のとゞろき、流のたぎりと共に、人をして夏のいづこにあるかを忘れしむるところ、捨て難いものがある。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
弘独リ走ツテ帰リ泣イテ家慈かじニ訴フ。家慈嗚咽おえつシテこたヘズ。はじメテ十歳家慈ニ従ツテ吉田ニ至ル。とも函嶺はこねユ。まさニ春寒シ。山雨衣袂いべいしたたル。つまずキカツたおルコトシバ/\ナリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
蹈居ふみゐる土も今にやくづれなんと疑ふところ、衣袂いべい雨濃あめこまやかそそぎ、鬢髪びんぱつの風うたた急なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さかさまに落すが如し衣袂いべい皆なうるほひてそゞろさぶきを覺ゆれば見分けんぶん確かに相濟んだと車夫の手を拂ひて車に乘ればまたガタ/\とすさまじき崖道がけみちを押し上り押しくだし夜の十時過ぎ須原すはら宿やどりへ着き車夫を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
私は甲板の腰掛こしかけに腰をおろして海風かいふう衣袂いべいひるがえすに任している。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
外へ出ると晩秋の風が爽やかに衣袂いべいに薫じて、狭い狭い路地にも、江戸の裏町らしい活気はみなぎります。
そら暗く水黒くして月星の光り洩れず、舷を打つ浪のみ青白く騒立さわだちて心細く覚ゆる沖中に、夜は丑三つともおもはるゝ頃、艙上に独り立つて海風の面を吹くがまゝ衣袂いべい湿りて重きをも問はず
雲のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
陽は西に傾きかけて、雨後の清々すが/\しい川風が、衣袂いべいを吹いて妙に總毛立たせます。
江戸の街々も、初夏らしい活氣にみなぎつて、急ぎ足の三人の衣袂いべいに風が薫じます。
江戸の街々も、初夏らしい活気にみなぎって、急ぎ足の三人の衣袂いべいに風が薫じます。