蛞蝓なめくぢ)” の例文
「年増の方は蛞蝓なめくぢ甘鹽あまじほで三日ばかり煮込んだやうな女で、お吉と言ひますがね、自分の部屋で宵からの放樂寢で」
蛞蝓なめくぢの匐ふ縁側に悲しい淋しいひきの声が聞える暮方近く、へやの障子は湿つて寒いので一枚も開けたくはないけれど、余りの薄暗さに堪兼ね縁先に出て佇んで見ると
花より雨に (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それより竹藪の中にはひり、竹の皮のむけたのが、裏だけ日の具合ぐあひで光るのを見ると、其処そこらに蛞蝓なめくぢつてゐさうな、妙な無気味ぶきみさを感ずるものなり。(八月二十五日青根温泉にて)
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
海鼠なまこ蛞蝓なめくぢは、矢張り心理で行動することも有るのでは有らうが、殆んど生理でのみ行動して居るやうで、心理で行動して居るところは吾人の眼には上らぬと云つても可なる位である。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
それは俊が森枳園と同じく蛞蝓なめくぢを嫌つて、闇中に蛞蝓を識つたと言ふことである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
其の薄暗い中に、べにや黄の夏草の花がポツ/\見える。地べたは青く黒ずむだこけにぬら/\してゐた………眼の前の柱を見ると、蛞蝓なめくぢツたあとが銀の線のやうにツすりと光ツてゐた。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
仲間には、高村光雲氏の弟子で、泰雲といつた、蛞蝓なめくぢの好きな男もまじつてゐた。白砂糖にまぶして三十六ぴきまで蛞蝓を鵜呑うのみにしたといふ男で、悪食あくじきにかけては滅多にひとひけは取らなかつた。
雨落あまおち敷詰しきつめたこいしにはこけえて、蛞蝓なめくぢふ、けてじと/\する、うち細君さいくん元結もとゆひをこゝにてると、三七さんしち二十一日にじふいちにちにしてくわして足卷あしまきづける蟷螂かまきりはら寄生蟲きせいちうとなるといつて塾生じゆくせいのゝしつた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
蛞蝓なめくぢの匐ふ縁側に悲しい淋しいひきの聲が聞える暮方近く、へやの障子は濕つて寒いので一枚も開けたくはないけれど、餘りの薄暗さに堪兼ね縁先に出て佇んで見ると
花より雨に (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
どうやら人種の進歩などと云ふのは蛞蝓なめくぢの歩みに似てゐるらしい。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「たま/\お天氣になつて驚いたのか、蛞蝓なめくぢみてえな野郎だ」
蛞蝓なめくぢはふとむくめきぬ。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「何んだ、蛞蝓なめくぢぢやなくてゲヂゲヂか」