薄藍うすあい)” の例文
姿がいからといって、糸より鯛。——東京の(若衆)に当る、土地では(小桜)……と云うらしいが浅葱桜あさぎざくらで、萌黄もえぎ薄藍うすあいを流したぶりの若旦那。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薄藍うすあい色の直衣のうしだけを上に着ているこの小さい人の色が白くて光るような美しさは、皇子がたにもまさっていて、きわめて清らかな感じのする子であった。
源氏物語:37 横笛 (新字新仮名) / 紫式部(著)
国貞はまた常に薄紅うすべに薄藍うすあいの如き薄色地の衣裳と、殊更ことさらに濃くしたる黒色こくしょくを用ゆる事を好む。国貞の風景画には名所の山水を背景となし半身の人物を描ける東海道名所絵の続物つづきものあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
黄に薄藍うすあいの影がさす、藍田らんでんの珠玉とか、やわらかく刻んで、ほんのりとあたたかいように見えます、障子ごしに日が薄くすんです。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
嵯峨さが帝が古万葉集からえらんでお置きになった四巻、延喜えんぎみかどが古今集を支那しな薄藍うすあい色の色紙を継いだ、同じ色の濃く模様の出た唐紙とうしの表紙、同じ色の宝石の軸の巻き物へ
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)
つたの葉の浴衣に、薄藍うすあい鶯茶うぐいすちゃの、たてじまお召の袷羽織あわせばおりが、しっとりと身たけに添って、紐はつつましく結んでいながら、撫肩なでがたを弱くすべった藤色の裏に、上品な気が見えて
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
菖蒲しょうぶ重ねのあこめ薄藍うすあい色の上着を着たのが西の対の童女であった。上品に物馴ものなれたのが四人来ていた。下仕えはおうちの花の色のぼかしの撫子なでしこ色の服、若葉色の唐衣からぎぬなどを装うていた。
源氏物語:25 蛍 (新字新仮名) / 紫式部(著)
池の水の青く澄んだのに、葉ざしの日加減で、薄藍うすあいに、おぼろの銀に、青い金に、鯉の影が悠然と浮いて泳いで、見ぶつに交った。ひとりお桂さんの姿を、肩を、つまを、帯腰を、彩ったものであった。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
畦の嫁菜をつまにして、その掛稲の此方こなたに、目もはるかな野原刈田を背にしてあわいが離れてしかとは見えぬが、薄藍うすあい浅葱あさぎの襟して、髪のつややかな、色の白い女が居て、いま見合せた顔を、急に背けるや否や
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)