薄葉うすよう)” の例文
貞時はさがしようもなく幾つかの女車をり過したなかに、薄葉うすようかごのようにふくらがし、元の方を扉にゆわえた女車があった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
わざ/\薄葉うすようの紙を買って来て、それを人情本所謂小本の型に切って、原本をそのまゝ透き写しにすることになったのです。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
甲斐は筆の軸を静かに抜き、その軸の中から、小さく巻いた薄葉うすよう紙を取出すと、注意ぶかく机の上でひろげながら、当然のことのように云った。
紅梅こうばい入りの薄葉うすように美しい手蹟で、忠助にかぎってそんな大それたことをするはずがないと、そのひとつことばかり、くりかえしくりかえし書いてあった。
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その二寸四方程の薄葉うすようらしい日本紙には、細い字で次の様に、訳の分らぬものが書きつけてあった。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その時に、微風が吹いて来て、机の上をあおると、さして強い風ではなかったけれど、半紙の薄葉うすようを動かすだけの力はあって、二三枚、すべるように、ひらひらと畳の上へ舞い下りました。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
の下におもてをふせて、強く額もてしたるに、顔にはただあたたかき霞のまとうとばかり、のどかにふわふわとさわりしが、薄葉うすよう一重ひとえの支うるなく着けたる額はつと下に落ち沈むを、心着けば
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宅に帰ては薄葉うすよう罫紙けいし書記かきしるしておいた。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その紙は上質の薄葉うすようで、細かい文字が五行ほど書いてあった。甲斐は読み終るとすぐに、燭台の火をつけて灰にした。
忠通は当座の引出物ひきでものとして、うるわしい色紙短冊と、紅葉もみじがさねの薄葉うすようとを手ずから与えた。そうして、この後ともに敷島の道に出精しゅっせいせよと言い聞かせた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かの女は薄葉うすようをこまかく裂いてそれを継ぎ合せ、窓わくに下げて風の過ぎるのを待った。風は紙きれの尾を吹いて宙に舞わせ、遠くからでも、その動きの見えるようにはかった。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
誰か、しかるべき人が所持している日本に数冊という極めて貴重の外国本の、又写しの又写しの、そのまた又写しの何代かの孫に当るべき薄葉うすようの肉筆写本を、この青年が持っているのであります。
浜村屋の屋号すかしの薄葉うすように、肉の細い草書くさがきで、今朝こんちょう、参詣旁々かたがた、遠眼なりともお姿を拝見いたしたく、あわれとおぼしめし、六ツ半ごろ、眼にたつところにお立ち出でくだされたく、と書いてある。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
顔にはただあたたかきかすみのまとふとばかり、のどかにふはふはとさはりしが、薄葉うすよう一重ひとえささふるなく着けたるひたいはつと下に落ち沈むを、心着こころづけば、うつくしき人の胸は、もとの如くかたわらにあをむきゐて
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
下のほうを逆さに振ると、細く巻いた薄葉うすようが出て来、甲斐はそれを机の上で、注意ぶかくひろげた。