萱草かんぞう)” の例文
夏は翡翠ひすい屏風びょうぶ光琳こうりんの筆で描いた様に、青萱あおかやまじりに萱草かんぞうあかい花が咲く。萱、葭の穂が薄紫に出ると、秋は此小川のつつみに立つ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
東京の桜井書店で発行になった吉井勇よしいいさむ氏の歌集『旅塵』に、佐渡の外海府での歌の中に「寂しやと海のうえより見て過ぎぬ断崖だんがいに咲く萱草かんぞうはな
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
腫れ物に障るやうに足袋裸足で歩いてゐる乗客もある、河原には埃を浴びて白くなつた萱草かんぞうの花の蔭から、蜥蜴とかげの爬ひ出す影が、暑くるしく石に映る
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
何ゆえにこの山に百合の紅白、もしくは萱草かんぞうのような赤い花でも取り合わせてみようと思わぬのかといってみた。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
紅の黄がちな色のはかまをはき、単衣ひとえ萱草かんぞう色を着て、濃いにび色に黒を重ねた喪服に、唐衣からぎぬも脱いでいたのを、中将はにわかに上へ引き掛けたりしていた。
源氏物語:42 まぼろし (新字新仮名) / 紫式部(著)
早い萱草かんぞうやつめくさのにはもう黄金きんいろのちいさな澱粉でんぷんつぶがつうつういたりしずんだりしています。
イーハトーボ農学校の春 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それからまた写生をしたくなつて忘れ草(萱草かんぞうに非ず)といふ花を写生した。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
萱草かんぞうの花が火を燈したやうに、黄色く咲いてゐる、船はもうハムモツクのやうに、空と水の境を揺られる。
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
濃いにび色の単衣ひとえに、萱草かんぞう色の喪のはかまの鮮明な色をしたのを着けているのが、派手はでな趣のあるものであると感じられたのも着ている人によってのことに違いない。
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
田のくろあか百合ゆりめいた萱草かんぞうの花が咲く頃の事。ある日太田君がぶらりと東京から遊びに来た。暫く話して、百草園もぐさえんにでも往って見ようか、と主人は云い出した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
淡鈍うすにび色のあやを着て、中に萱草かんぞう色という透明な明るさのある色を着た、小柄な姿が美しく、近代的な容貌ようぼうを持ち、髪のすそには五重の扇をひろげたようなはなやかさがあった。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)