草穂くさぼ)” の例文
「えいねぼう。おれが来たしるしだけつけて置こう。」と云いながら柏の木の下の枯れた草穂くさぼをつかんで四つだけ結び合いました。
若い木霊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
みんなは七つ森の機嫌きげんの悪い暁の脚まで来た。道がにはかに青々と曲る。その曲り角におれはまた空にうかぶおほきな草穂くさぼを見るのだ。
秋田街道 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
そこらの枯れた草穂くさぼをつかんで、あちこちに四つ、結び目をこしらえて、やっと安心したように、また藤の蔓をすこし口に入れてあるきだしました。
二人は足でけむりのような茶色の草穂くさぼをかきわけて見ましたが、ルビーの具皿ぐざらはそこにちていませんでした。
嘉十かじふはにはかにみゝがきいんとりました。そしてがたがたふるえました。鹿しかどものかぜにゆれる草穂くさぼのやうなもちが、なみになつてつたはつてたのでした。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
ただそこから風や草穂くさぼのいい性質せいしつがあなたがたのこころにうつって見えるならどんなにうれしいかしれません。
サガレンと八月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
知らない草穂くさぼが静かにゆらぎ、少し強い風が来る時は、どこかで何かが合図をしてでも居るやうに、一面の草が、それ来たっとみなからだを伏せて避けました。
種山ヶ原 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
そのとき私は大へんひどくつかれていてたしか風と草穂くさぼとのそこたおれていたのだとおもいます。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
黄色な草穂くさぼはかがやく猫睛石キャッツアイ、いちめんのうめばちそうの花びらはかすかなにじふく乳色ちちいろ蛋白石たんぱくせき、とうやくの碧玉へきぎょく、そのつぼみは紫水晶アメシストの美しいさきをっていました。
かえって私は草穂くさぼと風の中に白くたおれている私のかたちをぼんやり思い出しました。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
鹿どもの風にゆれる草穂くさぼのような気もちが、波になって伝わって来たのでした。
鹿踊りのはじまり (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いつかきりがすうっとうすくなって、お日さまの光が黄金色きんいろすきとおってきました。やがて風がきりをふっとはらいましたので、つゆはきらきら光り、きつねのしっぽのような茶色の草穂くさぼ一面いちめんなみを立てました。