苦情くじょう)” の例文
「いや、なんでもありません。ただ最近、三回ほどの航海のあいだに、あの部屋ではみなさんから苦情くじょうが出たものですから……」
そうすればおれの方でも弁解もしようし、説明もしようけれども、初手しょてから根のない苦情くじょうじゃ手のつけようがないじゃないか
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんなふまじめなことを言ってはいかんよ、君たちのように前から気心きごころも知れば、お互いの理想も知っているのだから、苦情くじょうの起こりっこはありゃしないよ。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
まっ黒にかたまって、あかしの前を通るのですからしかたありませんや、わたしぁ、べらぼうめ、そんな苦情くじょうは、おれのとこへって来たってしかたがねえや
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
なにかにつけて苦情くじょうをいいたがるドノバンも、道理の前には口をつぐむよりほかはなかった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ぜひがない、随意ずいいにするがいいと、かぶとをぬいだような顔をして、苦情くじょう紛争ふんそうにけりをつけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
患者等かんじゃら油虫あぶらむし南京虫なんきんむしねずみやからてられて、んでいることも出来できぬと苦情くじょうう。器械きかいや、道具どうぐなどはなにもなく外科用げかよう刄物はものが二つあるだけで体温器たいおんきすらいのである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あるのこと、うえにかかっていると、から、湯沸ゆわかしは苦情くじょうもうされました。
人間と湯沸かし (新字新仮名) / 小川未明(著)
与右衛門さんはれい毛虫眉けむしまゆをぴりりとさせて苦情くじょうを持込んだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「おのぞみの咲耶子さくやことやらのからだは、何時なんどきにても、苦情くじょうなくおわたし申すことにいたそう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたせ、渡さぬ、の苦情くじょうが、そこに人渦ひとうずをまいてもめているすきに、石見守いわみのかみの目くばせで、呂宋兵衛るそんべえ菊池半助きくちはんすけのふたりが、ぷいと、どこかへ姿すがたしたことを、だれひとり気づいた者がない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)