芝口しばぐち)” の例文
足の向くがまゝ芝口しばぐちいで候に付き、堀端ほりばたづたひにとらもんより溜池ためいけへさし掛り候時は、秋の日もたっぷりと暮れ果て、唯さへ寂しき片側道。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あの時分、奥さんは大患おおわずらいをなすった後で、まだ医者に見てもらう必要があって、一日おきに芝口しばぐちのお宅から万世橋まんせいばしの病院まで通っていらしった。
途上 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
芝口しばぐちの辺で岩見が始めてカフス釦を見て茫然としている隙にボーナスの袋を抜いたのです。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
『だが、先刻さっき休んだ芝口しばぐちの茶店では、学者風の男が、町人達へ向ってこう云っていたぜ。——浪士達がやった事は、忠義の心からやったには違いないが、国法から見れば大罪人だと』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでも細君に対する疑惑は薄らがなかったさ、それから五六日して、夕方芝口しばぐちを散歩していると、背後うしろから一台の自動車が来たが、ふと見ると、それには深ぶかと青い窓掛まどかけを垂れてあった
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
芝口しばぐちは品川濱につづいて驛路の賑はつたことはまをすまでもなからう。
花火と大川端 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
……芝口しばぐち結城問屋ゆうきどんやの三男坊で角太郎かくたろうというやつ。……男はいいが、なにしろまだ部屋住へやずみで、小遣いが自由ままにならねえから、せっせと通っては来るものの、千賀春はいいあしらいをいたしません。
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ちっ日数ひかずが経ってから、親仁どのは、村方むらかた用達ようたしかたがた、東京へ参ったついでに芝口しばぐち両換店りょうがえやへ寄って、きたな煙草入たばこいれから煙草の粉だらけなのを一枚だけ、そっと出して、いくらに買わっしゃる
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
武「これはなんで、芝口しばぐち三丁目の紀国屋きのくにやと申すが何時も出入であつらえるのだが、其所そこへ誂えずに、本町ほんちょうの、なにアノ照降町てりふりちょう宮川みやがわで買おうと思ったら、彼店あすこは高いから止めて、浅草茅町あさくさかやちょう松屋まつやへ誂えて」
「新橋よりも芝口しばぐちよ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
八重かくの如く日ごとわがに来りて夕暮近くなる時は、われと共に連れ立ちて芝口しばぐち哥沢芝加津うたざわしばかつといふ師匠のもとまで端唄はうたならひに行くを常としたり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
芝口しばぐちの袋物屋の番頭に血道を揚げて騒いでいやアがる癖に
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
友「芝口しばぐち紀伊國屋きのくにやの友之助ですよ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
芝口しばぐちの茶屋金兵衛きんべゑにて三句
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)