もぐさ)” の例文
おっかさんはそれで、昔の二銭銅貨くらいの平ったい団子を拵え、それからもぐさをまるめて小指の先くらいのものを幾つも拵えた。
不肖の兄 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
すぐ小さい香筥こうばこをとり出した。それにきのうのもぐさが入っている。有無をいわさず帝に迫って、彼女の白い手はもう御衣おんぞのお背を脱がせにかかる。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それやかとても、火道具はちゃんとここに持っておるがや、燐寸マッチなぞは使わんぞ、もぐさにうつす附木つけぎには、浅間山秘密な場所の硫黄が使うてあるほどに。」
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二のつく日、即ち二日、十二日、二十二日には火の力が非常に強いから、リューマチスの反対刺戟材であるもぐさを、その熱が他日より強いというので使用する。
坂の麓に一古寺あり。門に安閑寺の三字を掲げたり。ふと安閑寺の灸とて名高きもぐさりしはこの寺なり。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いったい、胆吹山へ行って、誰に会って何をするんでござんすか、ただ湖岸うみぎしを突走って、胆吹山へ行きつきばったりに、もぐさでも取ってけえりゃいいんでござんすか
足が動かんのにその人らと一緒に歩いて行くことは実に困難ですから断ったので、そこでマッチともぐさを取り出して足の三里に灸を据えますと大分足が軽いような感じがして来た。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それからこまごまとととのえたものには洋杖ステッキ蝙蝠傘こうもりがさ、藤いろ革の紙幣入かみいれ、銀鎖製の蟇口がまぐち、毛糸の腹巻、魔法罎、白の運動帽、二、三のネクタイ、もぐさいろの柔かなズボン吊、鼠いろのバンド
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
いまわという時、立騰たちあがる地獄の黒煙くろけむりが、線香の脈となって、磊々らいらいたる熔岩がもぐさの形に変じた、といいます。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「じゃあ、この沢のよもぎを刈って、もぐさを作るのが職業しょうばいだと、いつかいったのは嘘だな」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もぐさに事は欠かない、お望みなら、それをひとつお雪ちゃん、あなたにこの場で据えて進ぜましょう——きますぜ、道庵が師匠からの直伝じきでんの秘法なんですから、効き目はてきめんでげす。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
若葉照りいぶるもぐさは押しすゑて熱き三里がよくきくよくきく
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
お冬さん、あんたも知ってじゃろ、別しての秘法は、もぐさも青々となる瑠璃るりの白露のようながや。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よくきてあたりかなしく柔らかきもぐさは妻が揉むべかるらし
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「なるほど、やいともぐさは、この土地の名産だっけな」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二階の論判ろッぱん一時ひとときに余りけるほどに、雷様の時の用心の線香をふんとさせ、居間からあらわれたのはお蔦で、もぐさはないが、禁厭まじないは心ゆかし、片手に煙草を一撮ひとつまみ。抜足で玄関へ出て、礼之進の靴の中へ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
火のうつりしじにし沁むるもぐさには蓬のつゆさき濡らしてむ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「そうか……もぐさ作りなら、女でも出来るわけだな」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それ、利くであしょ、ここでえるは施行せぎょうじゃいの。もぐさらずであす。熱うもあすまいがの。それ利くであしょ。利いたりゃ、利いたら、しょなしょなと消しておいて、また使うであすソ。それ利くであしょ。」とめ廻すてい
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)