胸前むなさき)” の例文
ちええ、面倒だ。と剣をふるい、胸前むなさき目懸けて突込みしが、心きたる手元狂いて、肩先ぐざと突通せば、きゃッと魂消たまぎる下枝の声。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「未だ帰りませんで……。」とそこへ窮屈さうに小さく坐つて、何時も叱られる胸前むなさきはだかりを取締て居る。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
われは胸前むなさきに合掌して、神よ、詩人も亦汝の預言者なり、その聲は寺裏に法を説く僧侶より大なるべし、我に力あらせ給へ、我心の清きを護り給へと念じたり。
掻い垂らす、胸前むなさき
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
せなかいだくように背後うしろに立った按摩にも、床几しょうぎに近く裾を投げて、向うに腰を掛けた女房にも、目もくれず、じっと天井を仰ぎながら、胸前むなさきにかかる湯気を忘れたように手でさばいて
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
掻い垂らす、胸前むなさき
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
普門品ふもんぼん、大悲の誓願ちかいを祈念して、下枝は気息奄々えんえんと、無何有むかうの里に入りつつも、刀尋段々壊とうじんだんだんねと唱うる時、得三は白刃を取直し、電光胸前むなさききらめき来りぬ。この景この時、室外に声あり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
月がして、その肉はあおく、その骨は白く見ゆるまで、冷えて霜を浴びたようになったのを、往来ゆききの仕事師が見附けて、大坂屋へ抱え込むと、気が付いたが、急に胸前むなさき差込さしこみが来てから
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ななめに、がッくりとくぼんで暗い、崕と石垣の間の、遠く明神の裏の石段に続くのが、大蜈蚣おおむかでのように胸前むなさきうねって、突当りにきば噛合かみあうごとき、小さな黒塀の忍びがえしの下に、どぶから這上はいあがったうじ
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)