義侠心ぎきょうしん)” の例文
市民を一刻も早く安心させたいという燃えるような義侠心ぎきょうしんから発していることを知ると、それでも中止するようにとは云えなかった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そうだよ、だから、俺だちの義侠心ぎきょうしんも思わないで、ふざけたことを云ってるのだ」広栄を見て、「野郎、どうだ、どうするのだ」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
細君は顔色を変えておそれた。王成は老婆に義侠心ぎきょうしんのあることを説明して、しゅうとめとしてつかえなければならないといったので、細君も承知した。
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「何かありませんか。なんでもいいんです。ひとえにあなたの義侠心ぎきょうしんにおすがりします。たのみます。ひとえにあなたの義侠心に、……」
未帰還の友に (新字新仮名) / 太宰治(著)
なるほど寒月君のために猫にあるまじきほどの義侠心ぎきょうしんを起して、一度ひとたびは金田家の動静を余所よそながらうかがった事はあるが、それはただの一遍で
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
むろんあれも、きみを部屋の中へおびきよせるための奇抜きばつな手だてだったのさ。きみは義侠心ぎきょうしんにとんだ子どもじゃからね。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼女はそれもいやであるが、さればとて、判然と妙子の側に立って姉夫婦を圧迫する程の義侠心ぎきょうしんは尚更ない、と云うのが正直なところなのであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
よしその情いかにも気の毒であるからただ自分の義侠心ぎきょうしんでやると中将閣下がなされたところが、これが国際問題になると実に面倒な事が起って来る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それはいいとして、この山勘口上やまかんこうじょうで第一におもしろいことは、この興行こうぎょうに決まった入場料にゅうじょうりょうのなかったことであった。われわれは見物の義侠心ぎきょうしん信頼しんらいする。
ことばは簡単ながらなおよく言外に義侠心ぎきょうしんの強さをはらましているあたりといい、普通の場合の人間であっても、ぐっと骨身にこたえるところでしたから
二人でこの村の遠縁のものをたよって流浪るろうして来たのであるが、その遠縁のものはその時死んで居らず、やむなく、良雄の父にすがりつくと、義侠心ぎきょうしんに富んだ良雄の父は
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
我をわすれて溺れかけている人を助けにゆくのは、義侠心ぎきょうしんだとある人はいうかもしれない。溺れかけている人を救う種類のことだけならば、あるいは義侠心のみでもできるかもしれない。
たましいの教育 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
かくいうといかにも義侠心ぎきょうしんありげに聞こえるが、実は日ごろ親しく交われる友人間のことゆえ、一時の急を救わんとする自然の友情より起こったことで、あながち誇るべきことではないが
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
日本から招聘しょうへいせられた工学者で、この島へきてからもはや、二十年の月日はすぎた、かれは温厚おんこうのひとでかつ義侠心ぎきょうしんが強いところから、日本を代表する名誉めいよ紳士しんしとして、一般の尊敬そんけいをうけている。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ケンもダビットも、義侠心ぎきょうしんが強かったから、すぐこの人命救助にのりだした。玉太郎はうれしくて、胸がいっぱいになった。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おい、何か云わないのか、俺だちが義侠心ぎきょうしんを出して、家庭を粛正してやろうとしてることが判らないのか、ばか
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いやしくも一遍の義侠心ぎきょうしんがあるならば、うんあなたの移る処ならどこでも移ります、と答えるはずなのだ。そうは答えなかったらしい。ここにそう答えられない訳がある。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その容貌といい小さな身体からだといい、その色その性質および義侠心ぎきょうしんに富んで死をいとわぬというような点においては、確かに日本人と同一の種族であると思われる程似て居るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
トドのつまりは夫の理解と義侠心ぎきょうしんとにすがるより外はないとして、幸子の一番大きな心配は、どんな風にして見たところで、結局今度もこの事件のために雪子の好運が逃げて行ってしまうであろう
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自分があの京橋のスタンド・バアのマダムの義侠心ぎきょうしんにすがり
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
次には忠、孝、義侠心ぎきょうしん、友情、おもな徳義的情操はその分化した変形と共に皆標準になります。この徳義的情操を標準にしたものを総称して善の理想と呼ぶ事ができます。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分の為ばかりじゃない。実際君の為に後悔している。僕が君に対してしんに済まないと思うのは、今度の事件より寧ろあの時僕がなまじいに遣り遂げた義侠心ぎきょうしんだ。君、どうぞ勘弁してくれ。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)