わが)” の例文
眼鼻、口耳、皆立派で、眉は少し手が入っているらしい、代りに、髪は高貴の身分の人の如くに、わがねずに垂れている、其処が傲慢ごうまんに見える。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
三方はモルタルの壁で、わがねたゴムホースや、消火器や油差などが掛かっている。頭のほうに戸口があって、そこから薄緑に染まった陽がさしこんでいる。
肌色の月 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
今日では石油を襤褸ぼろに浸していぶすものであるが、以前は竹の串に髪の毛を少しわがねてはさみ、その片端を焦がしたもの、あるいは野猪のじし生皮なまかわを一寸角ばかりに切って
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
董花すみれのかほり高きほとりおほはざる柩の裏に、うづたか花瓣はなびらの紫に埋もれたるかばねこそあれ。たけなる黒髮をぬかわがねて、これにも一束の菫花を揷めり。是れ瞑目せるマリアなりき。
ハマとは特殊の的のことで、これを射るに用いた弓矢をハマ弓ハマ矢と称し、後には単に男児の初正月を祝う飾物となってしまった。ハマは藁縄や藤蔓などをわがねて作ったり、または木で作ったりする。
初旅の大菩薩連嶺 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
無慙むざんや、行燈の前に、仰向あおむけに、一個ひとつつむりを、一個ひとつ白脛しらはぎを取って、宙に釣ると、わがねの緩んだ扱帯しごきが抜けて、紅裏もみうらが肩をすべった……雪女はほっそりとあからさまになったと思うと、すらりと落した
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白柳どろやなぎの枝をわがねて
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
珠数子釣りは鉤は無くて、餌をわがねて輪を作る、それを鰻が呑み込んだのを攩網たまで掬って捕るという仕方なのだ。
夜の隅田川 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
少女の姿を論ずべからずと云ひ、理髮師は、否々、彼の美しき髮のいかにわがねられたるかを見ずやと云ひ、語學の師はその會話の妙をたゝへ、舞の師はその擧止のけだかさを讚む。
のちのしるしにせばやと思いてその髪をいささか切り取り、これをわがねてふところに入れ、やがて家路に向いしに、道の程にてえがたく睡眠をもよおしければ、しばらく物蔭ものかげに立寄りてまどろみたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ムッシュウはわがねたザイルを肩にかけてピッケルを持ち、マダムは緑色のサングラスをして、水筒を吊っていた。昼食は氷河の近くの山小屋でするつもりだったので、食糧は用意しなかった。
白雪姫 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
帯を解いて下じめと共に卓子テイブルの上にわがねてあった。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
後のしるしにせばやと思ひてその髪をいささか切り取り、これをわがねて懐に入れ、やがて家路に向かひしに、道の程にて耐へがたく睡眠を催しければ、しばらく物蔭に立ち寄りてまどろみたり。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)