素槍すやり)” の例文
白刃しらはげ、素槍すやりかまへてくのである。こんなのは、やがて大叱おほしかられにしかられて、たばにしてお取上とりあげにつたが……うであらう。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
繰返し、繰返し、槍の長さとか、穂の長さとか、得手は、管槍くだやりか、素槍すやりか、とか、いろいろ聞いて参ったそうだ。江戸よりの下り道であろう。
寛永武道鑑 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
官兵衛はつづいて、猛然もうぜんと、廊の外へ出ようとしたが、もういけなかった。荒木村重の家臣が素槍すやりをそろえて来たのである。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宇治山田の米友ならば、二言にごんに及ばず、ここで啖呵たんか素槍すやりの火花が散るべき場合だが、与八では根本的に問題にならない。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
忠之はたとひ身の破滅は兔れぬにしても、なるべく本邸で果てたいと云ふので、内藏允が思案して、忠之の駕籠かごを小人數で取り卷き、素槍すやり一本持たせて、夜こくに神奈川を立たせた。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
粛々しゅくしゅく、行軍の足なみにかえる。その頃から素槍すやりを引っさげた部将が、一倍大股な足どりで、絶えず隊側を監視しつつ進んだ。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
部屋の隅にあった碁盤と将棋盤を持って来て、それでやっと取り下ろしたのが九尺柄の素槍すやり
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこが閉まると、一組七名ずつの素槍すやりを引っさげた兵が、絶え間なく、附近を巡って、水も洩らさぬ警戒をしていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かんのうちから、悦之進どのと根競こんくらべを約束して、毎あさ暁起ぎょうきして、てまえは素槍すやり千振せんぶり、悦之進どのは、居合いあいを三百回抜くというぎょうをやっておりまする」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
故に、上下のわかちなく非常の装いをして、榊原康政さかきばらやすまさなども、素槍すやりをかかえて、自身、方丈ほうじょうの外に立っていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに部下の兵若干じゃっかんとはいえ、鉄砲や素槍すやりをたずさえ、それらの兵は甲州全地を蹂躪じゅうりんして、皆どこかで鮮血を味わっている、いわゆる常ならぬ殺気の持主だった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その内蔵助くらのすけ利三のほかにも、素槍すやりをかかえやいばを握りしめた幾名かの者が同じように身をこわめていることはたしかである。——光春の感覚はあきらかにそれを見抜いている。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門を固めていた兵は、彼のすがたが、日頃の恰好とはちがうので、いきなり素槍すやりを向けて来て
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とはいえもちろん客の視野には、一すじの素槍すやりの光だに、眼にふれないように隠してあった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、百姓町民はその都度つどに会うことである。火に追われ、流れだまや、白刃素槍すやりにも見舞われる。血にすべりかばねにつまずき、落ちてゆく山地の夜には、また、剽盗無頼ひょうとうぶらいの徒が待っていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)