粘土ねばつち)” の例文
したい放題さ。でも奥さんは長くは一緒にいなかった。思ってもみな。粘土ねばつちだ、水だ、空っ風だ、野菜もなけりゃ果物もねえ。
追放されて (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
水鶏くいなが好んで集まる、粘土ねばつちあしが一面に生いしげったところをじくじく流れる、ほとんど目につかないような小川で、本土から隔てられている。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
ふた打欠ぶっかけていたそうでございますが、其処そこからもどろどろと、その丹色にいろ底澄そこすんで光のある粘土ねばつちようのものが充満いっぱい
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此方こちらは猿子橋のきわに汚い足代あじろを掛けて、とまが掛っていて、籾倉の塗直ぬりなおし、其の下に粘土ねばつちが有って、一方には寸莎すさが切ってあり、職人も大勢這入って居るが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
戸口の無い大きな家を作つてその家の中におはいりになり、粘土ねばつちですつかり塗りふさいで、お生みになる時に當つてその家に火をつけてお生みになりました。
少しく可怪おかしいとは思ったが、柔かいのはおそら粘土ねばつちであろうと想像して、彼はずここに両足を踏み固めた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鉄棒にぶらさがっていたものは、でんぐり返しを中途でめ、それから、口をけたまま、額に汗をかき、シャツの袖をまくり上げ、粘土ねばつちのついた指を拡げたまま、地べたへ飛びおりる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
葭簀よしずの影から見ると粘土ねばつちのへっついに、さび茶釜ちゃがまが掛かっている。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
広い広い大洋の中の離島はなれじまにゐるやうな気がする。只側に粘土ねばつちで下手に築き上げた煙突が立つてゐて、足の下に犬が這ひ寄つてゐるだけである。物音がまるで絶えて、どこもかしこも寒くて気味が悪い。
神様は粘土ねばつちで人間を作るのに、すべて自分にせたといふ事だ。
すると雨で粘土ねばつちが滑るから、ズルリ滑って落ちると、ボサッカの脇の処へズデンドウと臀餅しりもちを搗きまする、とボサッカの中から頬冠ほゝかぶりをした奴がニョコリと立った。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わが足下あしもとよこたわっているのは、尋ぬる父の安行であった。わが右の足で踏んでいた柔かい物は粘土ねばつちで無い、おいたる父の左のももであった。市郎は驚いて声も出なかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一足ひとあし二足ふたあし後へ下るとそば粘土ねばつちに片足踏みかけたから危ういかな仰向あおむけにお繼が粘土の上へ倒れる所を、得たりと又市が振冠ふりかぶって一打ひとうちに切ろうとする時大勢の見物の顔色がんしょくが変って
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)