窮迫きゅうはく)” の例文
年寄は、結局、復一の研究費は三分の一に切詰めることを鼎造に向って承知して来たにもかかわらず、鼎造の窮迫きゅうはくを小気味よげに復一に話した。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
はじめの調子の良さにくらべて、途中から険悪けんあくさを加えてのこの窮迫きゅうはくである。少年大使の運命はどうなることか。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
掛引かけひきみょうを得たるものなれども、政府にてはかかるたくらみと知るや知らずや、財政窮迫きゅうはく折柄おりから、この申出もうしいでに逢うてあたかわたりにふねおもいをなし、ただちにこれを承諾しょうだくしたるに
おりと婆さんの口吻くちぶりから察するのに、昆布の家は当時窮迫きゅうはくこそしていたものの、相当に名聞を重んずる旧家で、そんな所へ娘を勤めに出したことをなるべく隠していたのであろう。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「あの泥坊がうらやましい」二人の間にこんな言葉がかわされる程、其頃そのころ窮迫きゅうはくしていた。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わが身に職のあることを、はじめて彼女は身にしみてありがたがった。教え子の早苗にすすめられて願書は出してみたものの、着てゆく着物さえもないほど、生活は窮迫きゅうはくの底をついていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
四、五十両の金はおろか、一日一日の糧さえ今では窮迫きゅうはくしていた。有る物はみんな売り尽していた。品物を金に代えては喰べて来たのである。裏藪に生える蕗のとうの菜にも、この冬は喰べ飽きた。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小栗等の目的もくてき一意いちい軍備のもといかたうするがために幕末財政ざいせい窮迫きゅうはく最中さいちゅうにもかかわらずふるってこの計画けいかくくわだてたるに外ならずといえども、日本人がかかる事には全く不案内ふあんないなる時に際し