碁石ごいし)” の例文
僕はいい気味で、もう一つ八っちゃんの頬ぺたをなぐりつけておいて、八っちゃんの足許あしもとにころげている碁石ごいしを大急ぎでひったくってやった。
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
叔父の腹心たちは、碁石ごいしのように、四方に立って、囲みの形を取っていた。——天蔵の顔は見ているまに、あおくなった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山を分けて谷一面の百合ゆりくまで眺めようと心にきめた翌日あくるひから床の上にたおれた。想像はその時限りなく咲き続く白い花を碁石ごいしのように点々と見た。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日向で思い出しますのは、碁石ごいしであります。いわゆる「本蛤ほんはまぐり」と呼んで、この国の製品のよさを誇ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
千三は暗い門前でしずかに耳をそばだてた、奥で碁石ごいしをくずす音がちゃらちゃらと聞こえる。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
八五郎はまだ黒の碁石ごいしを握つたまゝ、路地の中へフラリと顏を出しました。
子産石こうみいしと申しまして、小さなのは細螺きしゃご碁石ごいしぐらい、頃あいの御供餅おそなえほどのから、大きなのになりますと、一人では持切れませぬようなのまで、こっとり円い、ちっと、平扁味ひらたみのあります石が
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
谷間にはいつも彼の部落が、あめ安河やすかわ河原かわらに近く、碁石ごいしのように点々と茅葺かやぶき屋根を並べていた。どうかするとまたその屋根の上には、火食かしょくの煙が幾すじもかすかに立ち昇っている様も見えた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
碁石ごいし程のおかさねは自分でこさえて、鶴子つるこ女史じょし大得意である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
また吉田山周辺には、北畠顕家らの奥州勢——結城ゆうき、伊達、南部、幾多の陣が、加茂川の一水を前に、たとえば碁石ごいしをつらねたように望まれるとある。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとより下手と下手の勝負なので、時間のかかるはずもなく、碁石ごいしを片づけてもまだそれほど遅くはならなかった。二人は煙草たばこみながらまた話を始めた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すみれほどな小さい人が、黄金こがねつち瑪瑙めのう碁石ごいしでもつづけ様にたたいているような気がする。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふたりの呼吸いきをかぞえることが出来る。少し離れたところから見ると、今にも闇を切ろうとしている武蔵の顔には、二つの白い碁石ごいしを置いたかのような物が見える。それが彼の眼だった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは赤と黒と両面に塗り分けた碁石ごいしのような丸く平たいものをいくつか持って、それを眼をねむったまま畳の上へ並べて置いて、赤がいくつ黒がいくつと後から勘定かんじょうするのである。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しばらくするとまた虫の音と碁石ごいしの音。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不思議な事に、橋本も活動の余地がないものと見えて、余と同様の真似まねをして、向うの方に長くなっている。枕元では田中君が女を相手に碁石ごいしでキシャゴはじきをやって大騒ぎをしている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)