破家あばらや)” の例文
たとひ軒端がくづれて、朽ち腐つた藁屋根わらやねにむつくりと青苔あをごけが生えて居るやうな破家あばらやなりとも、親から子に伝へ子から孫に伝へる自分の家を持つて居た。
その濁流の中を泳いで行くめあては、今しも中流を流れ行く一軒の破家あばらやの屋根のあたりであるらしく見えます。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しっ!」とばかり、此の時覚悟して立たうとした桂木のかたわら引添ひきそうたのは、再び目に見えた破家あばらやおうなであつた、はたせるかな、糸は其の手に無かつたのである。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おいテナルディエ・ジョンドレット、君がオピタル大通りの破家あばらやにいた所を、僕は見て知っている。
閉め切ってる破家あばらやのうちに響いた声が、すっと外へ筒抜けてしまって、後がしいんとなった。久七は駄々っ児のように身をゆすっていたが、いきなり上り口の柱へしがみついていった。
特殊部落の犯罪 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
恰もそれは雑草に埋れた破家あばらやの感じで、得体の知れない蔓草に窓も壁も蔽われて、更にこの宿泊所の陰鬱な零落者おちぶれものの蔭を濃くするために、葉の繁ったアカシヤの木立が深々と枝を垂れていた。
放浪の宿 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
「この家だ。住み荒して、見るかげもない破家あばらやだが」
肌色の月 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
くてしばらくのあいだといふものは、くつわを鳴らす音、ひづめの音、ものを呼ぶ声、叫ぶ声、雑々ざつざつとして物騒ものさわがしく、此の破家あばらやの庭の如き、ただ其処そこばかりをくぎつて四五本の樹立こだちあり
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そして彼女がはいって来ると、その破家あばらやも楽園となるのだった。ジャン・ヴァルジャンも喜びに輝き、コゼットに与える幸福によってまた自分の幸福も増してくるのを感じた。
私どもは初めは大通りの破家あばらやに住み、それから修道院に住み、次にリュクサンブールの近くに住んでいました。あなたが始めて彼女に会われたのはリュクサンブールでですね。
零余子むかごなどを取りに参ります処で、知っておりますんでございますが、そんなうちはあるはずはございません、破家あばらやが一軒、それも茫然ぼんやりして風が吹けば消えそうな、そこが住居すまいなんでございましょう。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あのゴルボーの破家あばらやにおける活劇のことを、争闘の間沈黙していて次に逃げ出すという不思議な行動を被害者が取ったあの活劇のことを、コゼットに一口も語らなかったのを。
破家あばらやまとうて置くのかと思つた。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)