痩馬やせうま)” の例文
御者は先刻さっきから時間の遅くなるのを恐れるごとく、せばいいと思うのに、みだりなるむちを鳴らして、しきりに痩馬やせうましりを打った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
遠路とおみち痩馬やせうまかした荷車が二輛にりょうも三輛も引続いて或時あるときは米俵或時は材木煉瓦れんがなぞ、重い荷物を坂道の頂きなる監獄署の裏門うちへと運び入れる。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その内哀れな痩馬やせうまは、とうとう力尽きて、ペシャンコに畳の上にへたばってしまった。……………………、………………。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
していいころだ!……さようなら、ソーニャ、お前も苦労したねえ!……みんなで痩馬やせうまを乗りつぶしたんだ!……もう精も根も尽きはーてーたー
いわゆる痩馬やせうまの名は広く知られ、これをこしらえる日がまちまちであることから、私などはそう想像している。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
快活の気はわき立ち、譏刺きしは燃え上がり、陽気さは緋衣ひいのようにひろがっている。二匹の痩馬やせうまは、花を開いてる滑稽を神に祭り上げて引いてゆく。それは哄笑こうしょう凱旋車がいせんしゃである。
脊の低い痩馬やせうまの脊の左右に、底の深いもつこをになはせ、そのなかに青物——茄子、白瓜、西瓜、カイベツ、玉葱、枝豆、西洋かぼちや、林檎、唐もろこし、など——を入れてある。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
伝平は、老耄おいぼれ痩馬やせうまを、前の柿の木につないで置いて、すぐ馬小屋をつくりにかかった。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
門内の広間に、疲れきった二頭の痩馬やせうまをいたわりながら、四人の兄弟はたたずんでいた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、悪い事にはこの吉蔵が博徒ばくとの親分で、昔「痩馬やせうまきち」と名乗って売り出してから、今では「今戸の親分」で通る広い顔になっている。しかもお由はその吉蔵親分の恋女房であった。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
長い影を地にひいて、痩馬やせうま手綱たづなを取りながら、れは黙りこくって歩いた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
痩馬やせうまに乗せられ刑場へ曳かれて行く死刑囚が、それでも自分のおちぶれを見せまいと、いかにも気楽そうに馬上で低吟する小唄の謂いであって、ばかばかしい負け惜しみをあざわらう言葉のようであるが
れは痩馬やせうま黙黙もくもく
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
七日のかゆの日には村の内の子供たちが、祝言を述べて物をもらいにくる風があった。痩馬やせうまと名づけて松の葉に少しの穴銭を貫き、この馬痩せて候と言って与えたとある。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
馭者ぎょしゃは台の上にのっていましたが、酒にでも酔っているらしく、妙な声ではな唄をうたっていました。車をひっぱる痩馬やせうまは、この酔払い馭者に迷惑そうに、とぼとぼとついていきます。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
朝門を辞して帰る折、曹操はまた、彼がみすぼらしい痩馬やせうまを用いているのを見て
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四三 痩馬やせうまの日
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)