牛酪バタ)” の例文
ややべにと金とを交えた牛酪バタいろの一面のはるばるしいさざなみであった。いよいよ夕凪だなと、私は私の船室ケビンの方へ、穏かに、また安らかに歩みを返した。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
麺麭パンを厚く切りそれに牛酪バタとジヤムとを塗つて、半々はんはんぐらゐの珈琲コーヒーを一わん飲ませた。その狭い台所兼食堂の卓の近くに、カナリヤが一羽飼つてある。
日本媼 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
粉をねて、その中へ乾杏子を押し込み、焼き皿に牛酪バタを塗って、キチンとお菓子を並べ、それから、おごそかな手つきでそれをテンピの中へいれました。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
熱い紅茶をすすりながら焼麺麭やきパン牛酪バタを付けていると、門野かどのと云う書生が座敷から新聞を畳んで持って来た。四つ折りにしたのを座布団のわきへ置きながら
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
十月一杯でバラビンスキー地方は一九〇ツェントネル(百ポンド)の牛酪バタをバタ生産組合へ支給する予定だ。
新しきシベリアを横切る (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
老婆は静かに立ち上がって牛酪バタ皮袋ふくろを取り出した。其処から牛酪を一摘み出して灯皿の中へ大事そうに入れて羊毛の燈心を差しくべて燧金ひうちから夫れへ火を移した。
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
無産の牛酪バタきれ——厚さ二分弱一寸四方——五十カペイカ——牛乳——とよりもいささか牛乳に似た冷水——が一合日本の二十四銭。チョコレイト——わが国において金五十銭ぐらいのもの——が約八円。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
やはり牛酪バタから離れ得ないように、どこに住んでも、お蔦と露八の住むところには、下駄の鼻緒から茶碗の模様一つにまで、江戸人の江戸好みがおのずから生まれて、あれから四年越しというものは
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
スパゲティを牛酪バタいためている最中で、こちらも火急の場合だったが、石亭先生の弱りかたがあまりひどいので、肉叉フゥルシェットを持ったまま先生のほうへ近づいて行った。
犂氏の友情 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
芸者と紳士ゼントルマンがいっしょになってるのは、面白いと、青年はまた焼麺麭やきパンの一ぺんを、横合から半円形に食い欠いた。親指についた牛酪バタをそのままはかまひざへなすりつけた。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
丁度今この地方は、牛酪バタ収穫時に入っている。
新しきシベリアを横切る (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
白楊ポプラの防風林をひかえた丘の蔭には牛乳を搾ったり牛酪バタ乾酪チーズをこしらえる「仕事場アトリエ」と呼んでいる三棟ばかりの木造の建物。雲の塊のような緬羊が遊んでいる広い牧場。
葡萄蔓の束 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
やく三十分ののち彼は食卓に就いた。あつい紅茶をすゝりながら焼麺麭やきぱん牛酪バタを付けてゐると、門野かどのと云ふ書生が座敷から新聞を畳んで持つて来た。四つ折りにしたのを座布団のわきへ置きながら
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ジュウジュウと牛酪バタげる音がきこえ、ふんわりした甘い匂いが、部屋の中に漂いはじめますと、少年は、我慢しきれないように喉を鳴らしながら、いくども水を飲みにゆきました。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
お延は手早く包紙を解いて、中から紅茶のかんと、麺麭パン牛酪バタを取り出した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「はい、牛酪バタ。……牛酪バタは少々古いです。かまいませんねえ」
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)