煤掃すすはき)” の例文
その年の師走しわすの十三日、おせきのうち煤掃すすはきをしてゐると、神明前の親類の店から小僧がけて来て、おばあさんが急病で倒れたとしらせた。
旧暦で正月を迎えようとする村々を通過ぎた時は、途中で復た煤掃すすはきの音を聞いた。一日々々と捨吉は温暖あたたかい東海道の日あたりの中へ出て行った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さては珍事じゃ大変じゃと、邸内一統煤掃すすはきという見得で騒出さわぎだし、家令はまず何はともあれ、警察へ届けて出る。御奥の老女は御神籤おみくじおろしにく。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仕方がないから、また布団の上へすわって、煤掃すすはきの時にござを丸めてたたみたたくように、そこら近辺を無暗にたたいた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
博士と助手と六人の刑事とが、夫々それぞれ手分けをして、たっぷり二時間程、まるで煤掃すすはきのように、真黒になって天井裏や縁の下、庭園の隅々までも這い廻った。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
煤掃すすはきほこりしづまる葉蘭はらんかな 子規
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
煤掃すすはきや埃に日のさす食時分 千川
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
お定の話によると、お駒はそれを水色縮緬ちりめん服紗ふくさにつつんで、自分の部屋の箪笥の抽斗ひきだしにしまって置いたのを、去年の暮の煤掃すすはきの時にうやうやしく持ち出して見せたことがある。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
暮の煤掃すすはきの折、灰汁洗屋あくあらいやを入れて、天井板をはずしてすっかり洗わせたとのことで、ひどく汚くはなかったけれど、それでも、三つきの間にはほこりも積んでいるし、蜘蛛くもの巣もはっていた。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
黒光りのした大黒柱なぞを見慣れた眼で、幸作は煤掃すすはきした後の狭細せせこましい町家の内部なかを眺め廻した。大旦那の噂が始まった。郷里くにの方に留守居するお種——三吉の姉——の話もそれに連れて出た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)