そゝ)” の例文
美しき目より火箭ひやを放ちて人の胸を射るは、容易ならぬ事なれば許し難しと論告せしに、喝采の聲と倶に、花の雨は我頭上に降りそゝぎぬ。
それを今書いて君にる。それから京都東本願寺家ひがしほんぐわんじけ粟津陸奥之助あはづむつのすけと云ふものに、己の心血をそゝいだ詩文稿しぶんかうが借してある。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
(寝てしまはうかな!)彼は、そんなことを思ひながら、庭の青葉に降りそゝいでゐる光りを、物憂気に眺めてゐた。
明るく・暗く (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
御先祖樣が慶長けいちやう元和げんな度々どゞの戰場に、敵の血をそゝいだるその鎧、申さばお身にもかへがたき寶、藤枝五百石のお家はその鎧と太刀の功名故でござりまするぞ。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
東西両大分割の未来の勝敗を算して、おもむろに邦家の為に熱血をそゝぐものいづくにある。杳遠えうゑんなる理想境を観念して、危淵に臨める群盲の衆生を憂唫いうぎんする者、いづくにある。
一種の攘夷思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
その喞筒ポンプの水の方向は或は右に、或は左に、多くは正鵠せいこくを得なかつたにもかゝはらず、かく、多量の水がその方面に向つてそゝがれたのと、幸ひ風があまり無かつたのとで、下なる低い家屋にも
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
さう云つた時に、小秀は恥かしさうに、パツと顔に朱をそゝいだ。
なかばそゝぐ雲天のうち、なぞといふ詩句も出來て來るのである。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
むね温柔の女性らは涙そゝぎて悲まん。
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
あざらけきそゝ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
我床には呪水をそゝぎぬ。わが眠に就くときは、僧來りて祈祷を勸めたり。此處置は益〻我心をおだやかならざらしめき。囈語うはごとの由りて出づるところは、われ自ら知れり。
けれどその影の敏捷びんせふなる、とても人間業にんげんわざとは思はれぬばかりに、走寄る自分のそでの下をすり抜けて、電光いなづまの如く傍の森の中に身をかくして了つた。跡には石油をそゝいだ材料に火が移つてさかんに燃え出した。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
弥六の襟、袖、手首には、そゝぎ掛けたやうに血が附いた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
聞説きくならく、昔はボツカチヨオ涙をヰルギリウスのつかそゝぎて、譽を天下に馳せたりとぞ。