潜戸くゞりど)” の例文
旧字:潛戸
表門の潜戸くゞりどばかりをけた家中は空屋敷あきやしきのやうにしんとして居る。自分は日頃から腹案して居る歌劇オペラ脚本の第一頁に筆を下して見た。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
物見臺から同じ梯子を降りると、平次の入つた戸へ入らずに、小さい庭を横切つて黒板塀の潜戸くゞりどを押すと、パツと外へ——
新舊二つある潜戸くゞりどの洞窟の内へも小舟を進めて見た。殊に新潜戸の方には、美しい傳説が織り込まれてある。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
小川町辺をがはまちへん御邸おやしきまへ通行つうかうすると、御門ごもん潜戸くゞりど西にしうち貼札はりふださがつてあつて、筆太ふでぶとに「此内このうち汁粉しるこあり」としたゝめてあり、ヒラリ/\と風であほつてつたから
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は庭石を伝つて、潜戸くゞりどをくゞつて、薄暗い地階のやうなところを通つて、風呂場へ行つた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
主人が起きてたれだと問へば、備前島町びぜんしままち河内屋かはちや八五郎の使つかひだと云ふ。河内屋はかね取引とりひきをしてゐる家なので、どんな用事があつて、つて人をよこしたかといぶかりながら、庭へ降りて潜戸くゞりどを開けた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
私は月や星を後にして潜戸くゞりどを開け中に這入つた。
足一たび潜戸くゞりどの中に入ると、不安と焦躁と、押し潰された恐怖が入り混つて、何んとも言へぬ緊迫した空氣を感じさせるのもむを得ないことでせう。
出雲浦に見逃せないものは、七つ穴と潜戸くゞりどの二ヶ所にある大きな洞窟である。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いざとなると、簡單にらちがあきました。嚴重に締め切つた表の潜戸くゞりどをあけ、八五郎を先頭に、ドツと入つたのが七、八人。平次は家の中で、入つて來る人數を制限するのに骨を折つたくらゐです。
「一間そこ/\でせうね。潜戸くゞりどの内だから」
潜戸くゞりどや木戸は開いてゐなかつたのかな」
「通用門の潜戸くゞりどは何時でも開いてゐるよ」