漫々まんまん)” の例文
車に揺られて、十九日の欠月けつげつを横目に見ながら、夕汐ゆうしお白く漫々まんまんたる釧路川に架した長い長い幣舞橋ぬさまいばしを渡り、輪島屋わじまやと云う宿に往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それは漫々まんまんたる海水の底に潜まった仙郷であり、天縁ある者のみの特に近よることを許される処と、解するようになったのも自然であった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
湖のおもては、相変らず肌寒い水を漫々まんまんたたえて、幽邃ゆうすいな周囲の山々や、森の緑をうかべて、あの自家発電用の小屋も、水門の傍らに建っています。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
折柄おりから上潮あげしおに、漫々まんまんたるあきみずをたたえた隅田川すみだがわは、のゆくかぎり、とお筑波山つくばやまふもとまでつづくかとおもわれるまでに澄渡すみわたって、綾瀬あやせから千じゅしてさかのぼ真帆方帆まほかたほ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
あの渺々びょうびょうたる、あの漫々まんまんたる、大海たいかいを日となく夜となく続けざまに石炭をいてがしてあるいても古往今来こんらい一匹も魚が上がっておらんところをもって推論すれば
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此地眺望最も秀美、東は滄海そうかい漫々まんまんとして、旭日きょくじつ房総ぼうそうの山に掛るあり、南は玉川たまがわ混々こんこんとして清流の富峰ふほうの雪に映ずるあり、西は海老取川えびとりがわを隔て云々、大層賞めて書いてある。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
この江戸えど川の流れはどこからこんなに水をたたえて漫々まんまんと流れているのだろうと思うのだ。——薄青い色の水が、こまかな小波さざなみをたてて、ちゃぷちゃぷと岸のどろをひたしている。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
やがて講義が終えてから、運動場に出て、羅漢松の木蔭の芝生の上に腰を下して漫々まんまんたる碧空に去来する白雲の影を眺めていると、霊動れいどうする自然界が、おのずから自我に親しみ来るように思われる。
沙漠はたんの色にして、波漫々まんまんたるわだつみの
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
或いは漫々まんまんたる大海によって取り囲まれたる島国である故に、ここのみはそう解せずにはおられなかったか、ただしはまた別に元からの是にやや近い言い伝えが、常人の心の底に潜み残っていて
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
海は漫々まんまんとして藍よりも濃く、巨浪きょろう鞺鞳とうとうとして岸を打つ。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)