水煙すいえん)” の例文
なお、刈込垣の前方には、パルナス群像の噴泉があって、法水が近づくと、突如奇妙な音響を発して水煙すいえんを上げはじめた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
峠のかげにもう陽は沈み、多宝塔の屋根の水煙すいえんだけが、七宝の珠でちりばめたように、燦々きらきらと夕陽の端をうけている。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九輪の尖端には水煙すいえんと称する網状の金属の飾りがついているが、この水煙には飛行ひぎょう奏楽する天女の一群が配してある。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
周章狼狽あわてふためき戸外こぐわい飛出とびだしてると、今迄いまゝで北斗七星ほくとしちせい爛々らん/\かゞやいてつたそらは、一面いちめんすみながせるごとく、かぎりなき海洋かいやう表面ひやうめん怒濤どたう澎湃ぼうはい水煙すいえんてんみなぎつてる。
塔の高さと実によく釣り合ったこの相輪の頂上には、美しい水煙すいえんが、塔全体の調和をここに集めたかのように、かろやかに、しかも千鈞せんきんの重味をもって掛かっている。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ときどき塔の相輪そうりんを見上げて、その水煙すいえんのなかにかしぼりになって一人の天女の飛翔ひしょうしつつある姿を、どうしたら一番よく捉まえられるだろうかと角度など工夫してみていた。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そして、その一帯な竹林の中から、古い塔の水煙すいえんや、阿弥陀堂あみだどうの屋根や、鳥居のあたまが浮いている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
塔の九輪くりん頂上にそそり立つ水煙すいえんが、澄みわたった秋空にくっきり浮び上っている。蜻蛉とんぼのとびかう草叢くさむらみちをとおって、荒廃した北大門をくぐり、直ちに金堂へまいる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
頂法寺の塔の水煙すいえんに、朝のがちかと光っていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)