水棹みさお)” の例文
じぶんは濡れた枯蘆かれあしの中の小さなほこらの傍へ寝ていたが、枯蘆のさきには一そうの小舟が着いていて、白髪しらがの老人が水棹みさおを張ってにゅっと立っていた。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夏は、まあええが、冬分ふゆぶんは死ぬ思いじゃったなあ。遠賀川おんががわの洲の岸に、水棹みさおを立てて、それに、舟を綱でもやう。寒風が吹きさらす。雪が降る。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
韋駄天いだてんを叱する勢いよくまつはなけ付くれば旅立つ人見送る人人足にんそく船頭ののゝしる声々。車の音。端艇きしをはなるれば水棹みさおのしずく屋根板にはら/\と音する。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
海向いの村へ通う渡船は、四五人の客を乗せていたが、四角な荷物を背負せおうた草鞋脚絆わらじきゃはんの商人が駈けてきて飛乗ると、頬被ほおかぶりした船頭は水棹みさおで岸を突いて船をすべらせた。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
お雪ちゃん一人が狼狽ろうばいしきって、立って水棹みさおを手さぐりにして、かよわい力で、ずいと水の中へ突き入れてみますと、棹はそのままずぶずぶと水に没入して、手ごたえがありません。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
船夫 (一番の渡船を出しに行く戸田の渡しの常雇じょうやとい、水棹みさおを担いで径を通る)
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
と云いさま手を放し沈みましたが、船底をくゞってまた此方こちらの舷へ手を掛け上りに掛るから、今は丈助も死物狂いでございますゆえ、喜代松の持って居た水棹みさおを取って勇助の面部を望み、ピューと殴る。
一度沈んでいた女は艪につかまったままで浮きあがって来た。父親はそれを見ると傍の水棹みさおって二度三度続けて殴りつけた。女はじっと父親の方を見たのちに艪を放して沈んで往った。
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
恐縮しながら水棹みさおを置き、鉢巻を取りながらやって来ると
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
父親は水棹みさおをだして流れている艪を引きよせてそれを艪べそにあわした。
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
船頭は水棹みさおを張って舟を出し、舳を東へ向けて艪を立てた。
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)