此地こっち)” の例文
串戯じゃない、……いや、その串戯ではない座敷の上段へ、今夜も通された——サの字の謎から、ずっと電車で此地こっちへ来てだよ。……
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
𤢖の一件がにかかるのと、二つには何と無しに此地こっちの方へ足が向いたと云うに過ぎないのである。けれども、彼女かれは酔っていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「マアサ私の言事いうことをお聞きヨ。それよりかアノ叔父も何だか考えがあるというからいずれとっくりと相談した上でとか、さもなきゃア此地こっちに心当りがあるから……」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
なにあれは東京の駿河台するがだいあたりの士族で、まだわかえ男だが、お瀧が東京の猿若町で芸者をて居た時分に贔屓に成った人で、今零落おちぶれて此地こっちへ来て居ると云うので
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「村の者の話にると、親父は山の方へ登ったとも云うんだ。うならば、万一此地こっちの方へでも迷い込んで来やアしないかと思って……。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「さあ、そう、うまく行くか知らん。……内証で呼出したりなんかして、どんな三百代言が引搦ひっからまろうも知れないからね、此地こっちは人気が悪いんだから。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今までだッてもそうだ、何卒どうぞマア文さんも首尾よく立身して、早く母親おっかさんを此地こっちへお呼び申すようにして上げたいもんだと思わない事は唯の一日も有ません。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
角「有難ありがてえな、それではお達者で、また此地こっちの田舎のおとっさんのうちの方へも来て逢う事がありやすべえ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
近々に兄さんの来なさるッて事が此地こっちの新聞に二三度続けて出ていましたからね、……五日ほど前にかたふなを取っておいたの。おつけの熱いのをと思ってさ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新「成程そうでしょうねえ、雷鳴かみなりには実に驚きまして、此地こっち筑波つくばぢかいので雷鳴はひどうございますね」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「まあ、貴方あなた此地こっちへ来てから、余程よっぽど大きくなったのねえ。今じゃあたしとは屹度きっと一尺から違ってよ。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
主税がまた此地こっちへ来ると、ちとおかしいほど男ぶりが立勝って、薙放なぎはなしの頭髪かみも洗ったように水々しく、色もより白くすっきりあく抜けがしたは、水道の余波なごりは争われぬ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
母親おっかアさん、そんな事をおっしゃるけれど、文さんは此地こっちなんか心当りがおあんなさるの」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私は能役者で、今度だって此地こっちへ来たのさ。謡の師匠なら、さき様の歓迎会や披露どころか。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あらたに別荘を一軒借りるのも億劫おっくうだし、部屋がりが出ず入らず、しかるべき空座敷あきざしきがあるまいか、と私が此地こっちに居た処から、叔父へ相談があったというので、世話をするように言って来た。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)