機掛きっかけ)” の例文
お雪は遁帰にげかえ機掛きっかけもなし、声を立てるすうでもなし、理窟をいうわけにもかず、急におなかが痛むでもない。手もつけられねば、ものも言われず。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「宜しい、」と男らしく派手にさわやかにいった。これを機掛きっかけに、蝶吉は人形と添寝をして少し取乱したまま、しどけなく、乱調子に三階から下りて来て、突然いきなり
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
月が出て時鳥ほととぎすくのを機掛きっかけに、蒲鉾小屋かまぼこごや刎上はねあげて、その浴衣で出ようというもんだな、はははは。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とか云って遊女おんなが、その帯で引張ひっぱるか、階子段はしごだんの下り口で、げる、引く、くるくる廻って、ぐいと胸で抱合った機掛きっかけに、頬辺ほっぺた押着おッつけて、大きな結綿ゆいわたの紫が垂れかかっているじゃないか。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
得意であったが、お酌が柳橋のでなくっては、と云う機掛きっかけから、エルテルは後日ごにちにして、まあ、題も(ハヤセ)と云うのを是非聞かして下さい、酒井さんの御意見で、お別れなすった事は
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……食べても強請ねだる。ふくめつつ、あとねだりをするのを機掛きっかけに、一粒くわえて、おっかさんはへいの上——(椿つばき枝下えだしたここにおまんまが置いてある)——其処そこから、裏露地を切って、向うの瓦屋根かわらやねへフッと飛ぶ。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何の機掛きっかけもなかったのに、お悦が、ふと……
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)