樽柿たるがき)” の例文
三四郎はしばらくたたずんでいた。手にかなり大きな風呂敷包ふろしきづつみをさげている。中には樽柿たるがきがいっぱいはいっている。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女「困りますね、草鞋を脱いで下さい、泥だらけになって仕様がございませんね、アレ塩煎餅しおせんべいの壺へ足を踏みかけて、まアお前さん大変樽柿たるがきを潰したよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
大きな梨ならば六つか七つ、樽柿たるがきならば七つか八つ、蜜柑ならば十五か二十位食うのが常習であった。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
爛酔という想像から、熟柿じゅくしのような息を吹き、同時に面ざしも酒ぶとりのした樽柿たるがきのような赤味を想い浮べてみると案外にも、これは蛍を欺かんばかりの蒼白さなのです。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
青花はないろの袖口から隙いて見える二の腕、さては頬被りで隠した首筋から顔一面に赤黒い小粒な腫物はれものが所嫌わず吹き出ていて、眼も開けないほど、さながら腐りかけた樽柿たるがきのよう。
腕をつかんで、そこから、ずるずると引きりだして来たのである。見ると、なるほど、土肥庄次郎にちがいないが、彼らの記憶にない庄次郎だった。樽柿たるがきのように真っえている。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
樽柿たるがき 八三・六五 〇・五八 〇・〇二 一二・五六 一・七六 〇・四三
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「丈吉は生れ付きの下戸で、樽柿たるがきを食つても赤くなる野郎でしたよ」
幕間まくあいには五銭の弁当や、三銭のすしや、一銭五厘の駄菓子や塩せんべいなどを売りに来た。わたしは一個八厘の樽柿たるがきをかじりながら「三十三間堂」のお柳の別れを愉快に見物したことを記憶している。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
殊に蜜柑みかん樽柿たるがきが好物で、見るに皮や種子を山のように積上げ
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
のそ/\あがり込んで茶のると、座敷で話し声がする。三四郎はしばらくたゞずんでゐた。手になり大きな風呂敷づゝみげてゐる。なかには樽柿たるがきが一杯はいつてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「丈吉は生れつきの下戸で、樽柿たるがきを食っても赤くなる野郎でしたよ」
次に其男がこんな事を云ひした。子規しき果物くだものが大変きだつた。ついくらでもへる男だつた。ある時大きな樽柿たるがきを十六つた事がある。それで何ともなかつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
子規しきは果物がたいへん好きだった。かついくらでも食える男だった。ある時大きな樽柿たるがきを十六食ったことがある。それでなんともなかった。自分などはとても子規のまねはできない。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)