松江まつえ)” の例文
東京帝国ていこく大学の招聘しょうへいに応じて、松江まつえ熊本くまもとの地を去ったことも、同じくヘルンの身にとっては、愛する妻への献身的けんしんてき犠牲ぎせいだった。
のみならず彼が二三日うちに、江戸を立って雲州うんしゅう松江まつえおもむこうとしている事なぞも、ちらりと小耳こみみに挟んでいた。求馬は勿論喜んだ。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
出雲国いずものくに松江まつえの大橋をかけるとき、人柱を立てることになったが、誰もみずからすすんで犠牲にえになろうという者はない。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なほこゝろざ出雲路いづもぢを、其日そのひ松江まつえまでくつもりの汽車きしやには、まだ時間じかんがある。わたしは、もう一度いちど宿やどた。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
昨日入学式に長女の松江まつえをつれて学校へいった大工のおかみさんは、せんたくものを忘れて、あきれた声でいった。よろずやのおかみさんは、わが意を得たという顔で
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
ひき返した君子が自分の部屋にはいろうとしたとき、廊下の闇から忍ぶような声がした。松江まつえさん。君子はぎょっとして、そこに立ちすくんでしまった。あんたの身体はきっと僕が守ります。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
前夜画会がかいくずれから、京伝きょうでん蜀山しょくさん、それに燕十えんじゅうの四人で、深川仲町なかちょう松江まつえで飲んだ酒がめ切れず、二日酔の頭痛が、やたらに頭を重くするところから、おつねに附けさせた迎い酒の一本を
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
すると思いがけなく彼女の口から、兵衛らしい侍が松江まつえ藩の侍たちと一しょに、一月ひとつきばかり以前和泉屋へ遊びに来たと云う事がわかった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
小ツルと松江まつえがとびとびして勇みたった。だまっているのは早苗さなえと、片桐かたぎりコトエだけである。早苗はもちまえの無口からであったが、コトエのほうは複雑ふくざつな顔をしていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
寛文かんぶん十一年の正月、雲州うんしゅう松江まつえ祥光院しょうこういん墓所はかしょには、四基しきの石塔が建てられた。施主はかたく秘したと見えて、誰も知っているものはなかった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
僕は大学に在学中、雲州うんしう松江まつえ恒藤つねとうの家にひと夏居候ゐさふらふになりしことあり。その頃恒藤に煽動せんどうせられ、松江紀行一篇を作り、松陽新報しようやうしんぱうと言ふ新聞に寄す。
学校友だち (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)