有無あるなし)” の例文
黒子の有無あるなしは別にどうでもよい事であるが、風呂屋の番頭さえ気のつかない事を、どうして新聞記者が知っていたのだろう。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
実際髯などうでもい、問題は尻尾の有無あるなしである。女の嫁きたがる男には狐の様によく尻尾を引摺ひきずつてゐるのがある。
こんな場合に遭遇った時、護身用の利器の有無あるなしは、致命的に大切なことである。防げるだけは防がなければならない。
奥さんの家出 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「師範学校? 師範学校とは少し変だな。」私は、女がまた出鱈目を云っているのか、それとも、そう思っているのか、と、真個ほんとうに教育の有無あるなしをも考えて見た。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
座敷ざしきへは婢女をんなばかりしてわたしいたいの頭痛づつうのとつて、おきやく有無あるなしにかゝはらず勝手氣儘かつてきまゝ身持みもちをしてばれましたからとて返事へんじをしやうでもない、あれをば他人ひとなんましたか
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いやあれは椀カケとも言い、揺鉢ゆりばちとも言って、あれで川の底や山の間の砂をよなげてみて金の有無あるなしを調べるんで。しかしあれだけの子供で、あれだけの慾があるのはなんにしても感心なことだ。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
本「左様そうですが天道干てんとうぼしという奴ア商いの有無あるなしに拘わらず、毎晩めいばんおんなとけえ出て定店じょうみせのようにしなけりゃアいけやせんから、寒いのを辛抱して出て来たんですが、雪になっちゃア当分喰込みです」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この有無あるなしの一言がなかなか言えぬ。
妖怪談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
この談話はなしを聴いた女学生は今ではそれ/″\巣立すだちをして人の細君かないになつてゐるが、誰一人詩人や芸術家にはかたづいてゐないらしいから、髯の有無あるなしは余り問題にはしてゐない。
「さ……」と属官はつまつたやうな顔をして、知行の有無あるなしを一寸考へるらしい風だつた。それに何の無理があらう、考へでもしなければ思ひ出せない程、ちよつぴりした知行取ちぎやうどりだつたのだから。