月明げつめい)” の例文
そもそも享保のむかし服部南郭はっとりなんかくが一夜月明げつめいに隅田川を下り「金竜山畔江月浮きんりゅうさんはんにこうげつうく」の名吟を世に残してより、明治に至るまでおよそ二百有余年
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのとき機体がスーッと浮きあがったかと思うと、真青まっさおな光の尾を大地の方にながながとのこして、宇宙艇はたちまち月明げつめい天空てんくう高くまい上った。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
欣弥のまなこひそかに始終恩人の姿に注げり。渠ははたして三年みとせの昔天神橋上月明げつめいのもとに、ひじりて壮語し、気を吐くことにじのごとくなりし女丈夫なるか。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
最後に昨夜の月明げつめい何処どこからとも無く響くギタルのを聞いて寝たのが何だか物哀ものがなしかつたことを附記して置く。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そして首尾よく構えの外へ脱出すると、すぐその場で松明を捨て、五六丁走った後に被衣かつぎかぶって、見渡すかぎり渺茫びょうぼうとした月明げつめいの中へ溶け込んで行った。
この鏡はかえって正体の知れぬ陳士成の全身を透きとおして、彼の身体の上に鉄の月明げつめいを映じた。
白光 (新字新仮名) / 魯迅(著)
かんとか天彦あまひことかいう名笛めいてきのようだ。なんともいえない諧調かいちょう余韻よいんがある。ことに、笛の音は、きりのない月明げつめいの夜ほどがとおるものだ。ちょうど今夜もそんなばん——。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寒けき月があるいは綿の如き雲の中をくぐり、或は墨のごとき黒雲に蔽われ、或は晴れ、或はくもりて、独り静かに大空をわたり行くをも知らず、時々月明げつめいに驚きて騒ぎわたれる烏の
一夜のうれい (新字新仮名) / 田山花袋(著)
私等は去年やったような歌の修行の集まりをば武州三峰みつみね山上で開いた。しかるに三峰山頂には仏法僧鳥がしきりに啼いた。もう日が暮れかかると啼く。月明げつめいの夜などには三つも四つも競って啼いた。
仏法僧鳥 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
幕面の光景、次第に月明げつめいになる。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
その騒ぎのうちに、ビルディングはすこしずつ崩れていって、やがて大音響をたてると、月明げつめいの夜が、一瞬に真暗になるほど恐ろしい砂煙をあげてその場に崩潰ほうかいしてしまった。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いつかの夜とは違って、月明げつめいの晩、それに身を隠す樹林も少ない嵐山の裏です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私等は去年やつたやうな歌の修行の集まりをば武州ぶしう三峰山上みつみねさんじやうで開いた。しかるに三峰山上には仏法僧鳥がしきりに啼いた。もう日が暮れかかると啼く。月明げつめいの夜などには三つも四つも競つて啼いた。
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)