更衣こうい)” の例文
はじめて桐壺きりつぼ更衣こういの上がって来たころのことなどまでがお心の表面に浮かび上がってきてはいっそう暗い悲しみに帝をお誘いした。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ことしの五月雨さみだれ頃だった。弘徽殿こきでん更衣こういづきの、さる女官が、藤壺のひとつのうす暗い小部屋で、ひとりの官人と、ひそか事をたのしんでいた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかなる女御にょうご更衣こういとても、こう素裸にして見たなら干鮭の一匹ぐらいは出てこようと。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
主人公光源氏の母桐壺の更衣こういの寵愛の話より始めて、源氏の出生、周囲の嫉視による桐壺の苦難、桐壺の死、桐壺の母の嘆き、帝の悲嘆、源氏の幼年時代、桐壺に酷似せる藤壺の更衣の入内じゅだい
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
襖の次にちょっとした更衣こういの控室もあって、そこへわたくしは寝道具や鏡台を取寄せて、もはや生涯家を脱け出たつもりの仮りであるのか実であるのか行く末判らないこの世の住家を定めました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これは低い更衣こうい腹の内親王であったから、心安い気がして格別の尊敬を妻に払う必要もないと思って、院からお引き受けをしたのである。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
と、告げると、そうかと頷いて、更衣こうい部屋にかくれ、老女の世話で、衣服をかえると、やがて奥書院へ歩いて行った。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高い才識の見えるほどの人ではないが、前には才女と言われた更衣こういであったのを思って、評判どおりに気のきいた人であると大将は思った。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ただの女御にょご更衣こういとはちがう。かりそめにもそなたは皇太子の御母。その皇太子を他の親王に代えるなどの儀は、つゆほども、考えてはいないことだ。
女という者は皆桐壺きりつぼ更衣こういになろうとすべきだ。私が地方に土着した田舎者だといっても、その古い縁故でお近づきは許してくださるだろう
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
もっとも歴世、後宮のひんには、大みきさきに次いで、女御にょご更衣こういなど、寵妃の数にかぎりはない制度だったので、ひとり後醍醐のみを怨じ奉る筋あいもない。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同情のある人は故人の美しさ、性格のなだらかさなどで憎むことのできなかった人であると、今になって桐壺の更衣こういの真価を思い出していた。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
今は昔でこそあれ、この泰子やすこは、かりそめにも、白河の君の御愛情に秘めいつくしまれた体ですよ。もし宮中にあれば、きさき更衣こういとも、あがめられたかも知れないのです。
どの天皇様の御代みよであったか、女御にょごとか更衣こういとかいわれる後宮こうきゅうがおおぜいいた中に、最上の貴族出身ではないが深い御愛寵あいちょうを得ている人があった。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
内侍とあるからにはもちろん御寝ぎょしはべ御息所みやすんどころ更衣こういにならぶ女性のひとりにちがいない。高嶺たかねの花だ、訊かぬがましであったよと、義貞はなおさら失望したものだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この女が若盛りのころの後宮こうきゅう女御にょご更衣こういはどうなったかというと、みじめなふうになって生き長らえている人もあるであろうが大部分は故人である。
源氏物語:20 朝顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
更衣こういとか典侍てんじとかよばれる深宮しんきゅうの女性にちがいない。いよいよ恐縮して、義貞はなかば夢心地で薬湯をおしいただいたが、あたりの花明りに、ふと、そのひとの顔を見たせつな
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御位みくらいにおきにならずに一臣下で仕えていらっしゃるのは、大納言さんがもう一段出世ができずにおくれになって、お嬢さんが更衣こういにしかなれなかった
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その人びとの間では、かりにその女性を、祇園女御ぎおんのにょごとよんでいた。女御にょご更衣こういは、宮中の称呼しょうこなので、わざと、地の名をつけてよび、世間には、退官の寵姫のように、見せつくろっていたのである。
後宮の人たちは競い合って、ますます宮廷を洗練されたものにしていくようなはなやかな時代であった。あまりよい身分でない更衣こういなどは多くも出ていなかった。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
『あいかわらず、若わかしゅうして、まるで、宮の上﨟じょうろうか、更衣こういみたいに、おめかししておりました。けれど、平太には、涙も出てまいりません。この人が母だという気がちっともして来ないのです』
御出家の際に悲しがった女御にょご更衣こういは院が御寺みてらへお移りになることによって、いよいよ散り散りにそれぞれの自邸へ帰るのであったが気の毒な人ばかりであった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
四十九日までは女御にょご更衣こういたちが皆院の御所にこもっていたが、その日が過ぎると散り散りに別な実家へ帰って行かねばならなかった。これは十月二十日のことである。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
更衣こういが起こした問題ではないから、過失として勅免があればそれでよいということになった。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
女御にょご更衣こういも御在位の時のままに侍しているが、東宮の母君の女御だけは、以前取り立てて御寵愛ちょうあいがあったというのではなく、尚侍にけおされた後宮の一人に過ぎなかったが
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
女御にょご更衣こうい、その他院内のあらゆる男女は上から下まで嗚咽おえつの声をたてないでいられるものはない、こうした人間の声は聞いていずに、出家をすればすぐに寺へお移りになるはずの
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
桐壺きりつぼ更衣こういのお生みした光源氏の君が勅勘で須磨に来ていられるのだ。私の娘の運命についてある暗示を受けているのだから、どうかしてこの機会に源氏の君に娘を差し上げたいと思う」
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
女御にょご更衣こういといってもよい人格の人ばかりがいるわけではないから、浮き名を流す者はあっても、破綻はたんを見せない間は宮仕えを辞しもせずしていて、批難すべきことも起こったであろうが
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
たいした後援をする人たちもなく、母方といっても無勢力で、更衣こういから生まれた人だったから、競争のはげしい後宮の生活もこの人には苦しそうであって、一方では皇太后が尚侍ないしのかみをお入れになって
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
上手じょうずだという名のある女御にょご更衣こういのいるつぼね々で心の内では競争心を持ち、表面は風流に交際している人たちの曹司ぞうしの夜ふけになって物音の静まった時刻に、何ということのない悩ましさを心に持って
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)