暗々裡あんあんり)” の例文
表面、織田と毛利とは、まだ交戦状態に入っていないが、暗々裡あんあんりの戦闘は、すでに何年も前から行われているといっても過言でない。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吾輩との妥協を絶望と見て取って暗々裡あんあんりに事件を揉み消すと同時に、同じような手段でもって総督府の誰かを動かしたものと見える。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まれにも無いことであった故に、これほどにも珍重せられたので、やはり暗々裡あんあんりに古書の外国記事が、自他の上に働いていたのかもしれない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
過去三年の間にどんな進展を見せているかを暗々裡あんあんりに通告されたような気がして、それを読み終わった瞬間しゅんかん、頭がかっとなった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
暗々裡あんあんりにいたわり慰めてくれているものと取れたが、しかも先方のその仕向け方が少しもわざとらしくないので、妙子も素直に打ち解けることが出来
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
社長の名誉を暗々裡あんあんりに保存したがよかろうと思って、社長の留守になる機会をうかがって社長室に入り、抽斗を開けて札束をポケットにねじ込もうとしました。
サルンで子供たちと戯れている時でも、葉子は自分のして見せる蠱惑的こわくてき姿態しながいつでも暗々裡あんあんりに事務長のためにされているのを意識しないわけには行かなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あれは小説家だからともに医学を談ずるには足らないと云い、予が官職を以て相対する人は、他は小説家だから重事をたくするには足らないと云って、暗々裡あんあんりに我進歩をさまた
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかしまあ当分害がなかろうからここに居るがよいというような事を暗々裡あんあんりらされた。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
新聞紙の報道を半分虚伝と思いつつも暗々裡あんあんりに認める外はなかった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
クリストフにたいして感謝的な敬意をいだいていたが、その様子をほとんど示しはしなかった。二人は暗々裡あんあんりに一致して、音楽会でしか語を交えなかった。彼は一度、学生らの間で彼女に出会った。
依てひそかに案ずるに、本文の初に子なき女は去ると先ず宣言して、文の末に至り、妾に子あれば去るに及ばずと前後照応して、男子に蓄妾の余地を与え、暗々裡あんあんりに妻をして自身の地位を固くせんが為め
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それをまた仲間のうちに語り伝えて、彼らの執念の深さを人に感ぜしめ、暗々裡あんあんり渡世とせいの地をしたらしい形跡もあるのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そのくらいはまだよいとして弟子共が持って来る中元や歳暮せいぼの付け届け等にまで干渉かんしょうし少しでも多いことを希望して暗々裡あんあんりにその意をふうすること執拗しつよう
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
道江の名を書くのがきまりわるくて、暗々裡あんあんりにそれをほのめかしたつもりなのだろうか。あるいは、予告なしに道江をつれて来て、自分をおどろかすつもりなのだろうか。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
横浜出航以来夫人から葉子が受けた暗々裡あんあんりの圧迫に尾鰭おひれをつけて語って来て、事務長と自分との間に何かあたりまえでない関係でもあるような疑いを持っているらしいという事を
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
つまり暗々裡あんあんりのかたちにすぎず、それでは心もとないと彼は言って
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暗々裡あんあんりにツァンニー・ケンボを排斥はいせきするの動機が広く現われて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
いわゆる徐福伝説の伝播でんぱと成長とには、少なくとも底に目に見えぬ力があって、暗々裡あんあんりに日本諸島の開発に、寄与していたことは考えられる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
倉地と岡との間には暗々裡あんあんりに愛子に対する心の争闘が行なわれたろう。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
仲間なかまがこの勝ち負けに力を入れる熱心さは、純然たる遊戯になるまでなお残っていて、それが暗々裡あんあんりに競技の興奮を忘れがたいものにしていたように思う。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ことに幾つとない異称が周囲の地に行われ、どれかその中の一つを採用しようという場合には、暗々裡あんあんりにその選択を左右した微細の力があったことは確かだが
是が博奕ばくちとか売春とかいう目に立つ弊風へいふうであるならば、むしろ自他ともに警戒したであろうが、それほど重きを置かれなくて、いつのまにか暗々裡あんあんりに入り込んでいた生活変化は
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)